事業承継講座(1): 何を承継するのか考える

今年の9月にこのブログを始めた目的のひとつは、私の専門分野である事業承継について、あるべき(と私が信じる)姿をきちんとお伝えする、ということでした。 いま、「大廃業時代」にさしかかっていますので、世の中にはちょっと変な人たちが出てきて事業承継について論じていたりします。それを見るにつけ、春風亭昇太師匠的に言えば、「これじゃダメじゃん。」と思ったわけです。

で、実際、事業承継について(も)書いてきましたが、振り返って見ると、どうも散発的な感じがいたします。あと、更新頻度が…

言い訳しますと、日常についてツラツラと書くことよりも、専門分野についてきちんと書くことのほうがハードルが高いんですよね。

しかし。12月7日で、ブログを始めて3ヶ月。私、反省しました。これからは事業承継について体系的に書いて行こうと思います。目標更新頻度は週に2回。ブログの利点を活かして、適宜リライトすることも試みようと考えています。

ということで、ご興味のある方はご覧くださいませ。

 

事業承継を成功させるためにまず考えなければいけないのは、「何を承継するのか?」ということです。

「え、 事業じゃないんですか?」と不思議に思われるかもしれませんね。 ではお尋ねしますが、その「事業」とは何でしょうか?

創業経営者の方にとっては、自らがスタートさせて今日まで築き上げた会社でしょうか。代々続いている方は、現在営んでおられる家業をイメージされるかと思います。

いずれの場合でも、次世代に「そのまま」引き継ぐことが事業承継であるとお考えであるとすれば、ちょっとお待ちいただかないといけません。それは危険であると私は申し上げたいのです。

「危険だなんて、大げさな」という声が聞こえてきます(笑)。 いえいえ、危険なんです。理由は2つあります。

1)いわゆるマーケティング近視眼に陥る危険
2)後継者を縛ってしまう危惧

詳しくご説明いたしましょう。

 

マーケティング近視眼に陥る危険

「マーケティング近視眼」、ご存知の方は多いかと思いますが、復習しましょう。

ハーバード・ビジネス・スクールのセオドア・レヴィット先生が1960年代に提唱された概念です。英文では Marketing Myopia 。ひとことで言えば、「自分の事業を狭く定義しすぎると環境変化に対応できなくなり、きわめて危険である」ということですね。

例をあげましょう。

任天堂はもともと花札を作る会社でした。故山内溥氏が急逝した祖父から会社を承継したとき、「うちは花札屋だ」と考えていたら、今日の任天堂は存在しないでしょう。とっくに潰れていたはずです。

山内さんは「うちは家庭内での楽しみを創り出す会社だ。」と考えたようなのです。(ご本人はそのようにはっきりと仰っていないのですが。)だからこそ、日本で初めてプラスチック製のトランプを作ったことを手始めに、ゲームの世界へと進出していくことができたのです。「マーケティング近視眼」に囚われなかったわけですね。

 

後継者を縛る危惧

「いまの仕事でええ。やり方を変えたらあかん。」というのであれば、後継者にとって承継するモチベーションはガタ落ちとなるでしょう。 顧客ニーズが不変で、競合もいないというのであれば話は別ですが、いまどきそんな事業はないはずです。

いまの事業、家業を「そのまま」引き継がせるのであれば、それは後継者の手足を縛って海に投げ込むようなものです。おやめください。

一方、長く続いている企業では、時おり家業からの逸脱を戒めるように読める家訓が存在する場合があります。

先日 Forbes に菊正宗で有名な嘉納家の家訓が紹介されておりました。 引用させていただきますね。

 

嘉納家家訓七カ条

一、父祖の業を専守すべし
二、必ず投機的事業を避けよ
三、時勢を見抜いて勝機を逃すな
四、主人は雇人と共に働け
五、勉めて公共事業に尽くせ
七、雇人はわが家族と思え

 

「『父祖の業を専守すべし』とあるではないですか!」という声が聞こえて来そうですが、第三条をよくご覧ください。『時勢を見抜いて勝機を逃すな』とあります。

つまり、第一条は本業と関係ない事業への進出を戒めているのであって、本業の範囲内ではむしろ第三条が示すように、市場の変化に機敏に対応することを求めていると読むべきであると思います。

事業を「そのまま」承継しろと言っているわけではないのです。

 

事業承継は駅伝に似ているが…

私はかねてより、「事業承継は駅伝に似ている」と申し上げています。 とくに、「区間の特性に応じて、走者に求める資質が変わってくる点が同じ」であるとご説明すると、「まさに!」というリアクションをいただきます。

まあ、事業承継の場合、第1区(創業者がランナーです)が箱根の山登りであるところが、特色なのですけれど。

似ているところが多々あるとはいえ、異なる点もあります。

駅伝の場合はひとつのタスキをつなぎます。タスキが途中で違う色になったり、デザインが変わったりすることはありませんよね。 同じタスキをつなぐわけです。

しかし、事業承継では「そのまま」事業を承継するのはダメですよ、と申し上げました。 では、何をつないでゆくのでしょうか?

 

承継するのは、理念、あるいは事業DNA

要するに、「突き詰めれば、うちの会社の役目、存在意義は〜だ!」という哲学というか、自己規定というか、それを承継していただきたい、と思うのです。

創業経営者の場合、綺麗事は別として、こういったことについて深く考えて来なかった方がけっこうおられます。 それを責めているのではありません。私は創業理念のファインチューンは第二世代の仕事だと申し上げていますので。

ただ、承継にあたって、後継者とともに考える機会を持っていただきたいと思います。それは、後継者に対して、大きな意味を持つはずです。

代々続いておられる方々にも、せっかくですので、承継に際して考えることをお勧めいたします。

なぜ私がここまで強く申し上げるのかというと、これからは承継にあたって、「一代一業」を考えないといけないのではないかと感じているからです。

 

ふと気がつけば、長くなってしまっていますね。このあたりについては次回にお話しさせていただくことにいたしましょう。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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