事業承継講座(3): 後継者の選び方(前編)

ファミリービジネスの場合、今さら後継者選びなんて、と思われるかたが多いかもしれませんね。 でも、あらためてお考えいただく価値はあると、私は思っております。 ご説明いたしましょう。

後継者=長子が基本

いまは少子化の時代なのであまり悩まれることはないかと思いますが、基本的には長子、つまり一番上のお子さんをまず後継者として考えることをおすすめします。

わざわざ「長子」と申し上げたのには 意味があります。いまの時代、「長男」にこだわらないほうがよいと私は考えているからです。(この点については、後編でくわしくご説明する予定です。)

なぜ長子かといえば、理由はふたつあります。

1)基本的に長子には事業を承継することについての自覚があります。
幼いころから、継ぐのが継がないのか、考えていないようで考えているのが長子です。承継を成功させるためには後継者の準備が不可欠ですから、どれだけ考えているか(深さX時間)はとても重要です。

2)あたりまえのことですが、長子は親との年齢差がいちばん小さくなります。
親子の間に中継ぎの経営者を挟むと、事業承継の難しさが一桁上がります。ですので、年齢差が小さいということは、意外にバカにできないことなんです。

自覚させるタイミング

小さいころから「いずれはお前が継ぐんだよ。」と声をかけて自覚を促すとしても、「継ぐのか継がないのか」を決断させるのは、いつがよいのでしょうか。

私が尊敬している経営者は、中学校に入学したときにお父様の前に正座させられ、「継ぐのか継がないのか、いま、この場で決めなさい。」と迫られたそうです。

この方は「はい」と答えて会社を継がれ、結果的には倍くらいの大きさまで成長させました。 ですので、この方の場合は結果オーライといえるのですが、一般的にはこのタイミングは早すぎるでしょうね。

たいていの場合、高校生になると文系か理系かの選択をしなければならなくなります。 否応なしに自分の進路について考えるわけですから、「継ぐ/継がない」の決断を促すのは、このタイミングが自然ではないかと思います。

もちろん例外もある

ただし、これはあくまでも一般論です。後継者が「親方」として職人を束ねることが期待されるような業種の場合、このタイミングは早くならざるをえません。職人としての修行を早く始める必要があるからです。

前回ご紹介した「たねや」さんでは、菓子の味を決めるのは「主人の舌」だそうです。

主人の舌を育てるのは訓練なのか? それとも生まれ持った才能なのか?
間違いなく訓練です。なにしろ、「町の駄菓子屋さんで買打てみたい!」とダダをこねるほど、うちの菓子ばかり食べさせられるのですから。
毎日毎日、食べていれば、微妙な味の違いがわかるようになります。私がまだ小さかった頃、「今日の栗饅頭はちょっと水分が足らんのと違う?」とつぶやいて、工場長を震え上がらせたことがあるそうです。
(「近江商人の哲学」山本昌仁著 より)

こういう業種では、早くから後継者教育を始めなければならないため、自覚を促すタイミングも早くならざるをえません。場合によっては「刷り込み」という形で、幼児のころに自覚を形成させることになります。

望ましいのは「啐啄」

「啐啄」は鳥の卵が孵化するときの様子を描写した表現で、「啐」は雛が卵の中から殻を叩く音、「啄」は、それに応えて親鳥が外から殻を壊して雛が出てくるのを助ける音を示しています。

大事なのは「啐」が先で、それに応じて「啄」があるということですね。内在的な動機付けが先行すべきであるということです。 昔から人材育成のポイントとしてよく使われる例えです。

何が言いたいのかというと、「お前が継ぐんだよ。」という押し付けは反発を招くだけということです。

事業承継に成功している場合の多くは、「継ぎたいのであれば、継いでくれ。」という問いかけがなされているようです。自分が継ぐのだと心に決めている後継者にとっては、それで十分でしょう。

ちょっと長くなりました。次回は長子以外を後継者にする場合と、長子=長女である場合についての望ましい姿を考えてみることといたします。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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