ル・ヴァン・フランセもいいけれど.…: カスタム・ウィンズ木管五重奏団第四回演奏会

12月6日。 伊丹からのフライトが遅れたため、おおいそぎで電車を乗りついで銀座まで。 おそらく現代の日本で最高の木管アンサンブルを聴くために、人をかきわけてヤマハホールへ。

室内楽の世界には、木管アンサンブルという分野があります。楽器編成としては二重奏からはじまって大きなものだと十三重奏まで。そのなかで最も華やかなのは木管五重奏、というのが私の意見です。 フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、そしてホルンという編成ですね。

弦楽器の世界だと弦楽四重奏団を代表例として、固定したメンバーによる団体がたくさんありますが、管楽器では稀です。

有名どころとしては、いまが旬という感じの、ル・ヴァン・フランセ。これはフランス人の名手たちの集まり。ちょっと古いところだと、ベルリン・フィルとウィーン・フィルのスター奏者たちが集まったアンサンブル・ウィーン=ベルリン、そしてベルリン・フィルの2番奏者たちによるベルリンフィルハーモニー木管五重奏団くらいでしょうか。(2番奏者といっても名手揃いで、ファゴットはドイツの重鎮、ヘニング・トローク先生でした。もう、圧倒的な存在感。)

いま日本で最高レベルにあるのはカスタム・ウィンズ木管五重奏団でしょう。メンバーは:

フルート: 岩佐和弘さん。 ときどき日フィルにエキストラでトップを吹かれてる方。

オーボエ: 広田智之さん。 都響首席。「広田素敵」さんとして有名です。

クラリネット: タラス・デムチシンさん。 九響首席。 昔は赤坂さんでしたが、交代したようですね。

ファゴット: 鈴木一志さん。 日フィル首席。

ホルン: 丸山勉さん。 日フィル客演首席。

 

ダンツィ:木管五重奏曲 ト短調 Op.56-2

木管五重奏曲を量産した作曲家として知られているのがこのダンツィと、ライヒャです。ダンツィが9曲、ライヒャは24曲書いています。管楽器を吹く人間にとっては面白いけど、そうでない人にとっては、どの曲も同じように聴こえてしまうかもしれません。

各楽器に均等に難しいソロが割り振られているのですが、みなさん見事に吹いておられてました。ウォーミングアップを兼ねての第1曲という趣向ですね。まずは、「うまいね〜」という嘆声がホールに満ちてのスタートでした。

 

M.ラヴェル(M.ジョーンズ 編):クープランの墓

もともとはピアノ曲。これは編曲が上手なのですね。いかにもラベルというような響きがしました。広田さんのオーボエの小洒落た様子といったら… 会場の7割近くを占めていたであろう広田ファンをうっとりさせておられました。

 

C.ドビュッシー(神田寛明 編):小組曲

N響首席フルート奏者の神田さんによる編曲。そのせいか、フルートとオーボエのための曲集のように感じたのは、ファゴット吹きの僻みかな?

 

T.ブルーメル:木管五重奏曲 Op.52

いちばん面白かったのはこの曲でした。私、このブルーメルという作曲者を知りませんでしたが、なんと亡くなったのは1964年。バリバリの現代音楽を予想して聴きましたが、そんな気配はまったく感じられないものでした。

プログラムの解説には、「リヒャルト・シュトラウスを思わせる…」と書いてありましたが、それはホルンが「薔薇の騎士」の冒頭を連想させるようなフレーズを吹くからですね。技巧的には難度が高い曲でした。でも、木管五重奏曲としてはとてもよく書けています。この曲で、5人の実力がまざまざと示された、という感じでした。

 

演奏について

こじんまりとしたヤマハホール。私の席は最前列で、クラリネットのすぐ前。奏者の息づかいや、アイコンタクトがはっきりわかって、たいへんな臨場感でした。

この5人の演奏のどこが素晴らしいかというと、それはほんとうの意味で合奏していたことです。出るときは出る、支えるときは支える、これが徹底されていて、感動しました。こうでないといけないのですよ、木管アンサンブルは。

奏者の方々にとっても、会心の出来栄えだったのではないでしょうか。満足感あふれる微笑みをうかべておられました。

 

今年の10月に日フィルの楽員の方々との懇親会がありました。その席でファゴットの鈴木さん、ホルンの丸山さんと楽しく雑談していたのですけれど、「こんどの僕たちの演奏会、もちろん来てくださいますよね?」と詰め寄られて「はい…」と答えたのがきっかけでした。誘っていただいてよかった。素晴らしい演奏会でありました。

 

 

 

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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