いま、誰よりも都響を鳴らせる男、アラン=タケシ:東京都交響楽団第947回定期演奏会

アラン=タケシ・ギルバートはマーラー指揮者として令名の高いひと。なんといっても、マーラー自身に加えて、ブルーノ・ヴァルター、オットー・クレンペラー、そしてレナード・バーンスタインという名だたる巨匠とマーラーの作品を演奏してきた伝統を持つニューヨーク・フィルの常任指揮者であったので、それは当然のことかもしれません。

 

しかし、私はどちらかと言うと、彼のブルックナーに注目しています。2019年7月の都響との4番は、実に圧倒的な演奏でした。このときの感想文にも書いたのですが、彼のブルックナーは伝統や慣習から離れてゼロから組み上げるという趣があり、私にとってはそれが魅力です。この4番の演奏については、評価が分かれたことを記憶しています。ブルックナー愛好家、とりわけ朝比奈先生の解釈を好む方々にとっては、違和感があったのでしょうね。

私はどちらかというと脱伝統派が好み。先だってのルイージ/N響の4番、ヴェンツアーゴ/読響の3番の清冽な演奏に心打たれました。今回、アラン=タケシが7番をどう演奏するか、興味津々で池袋へ。

曲目は前半にソルヴァルドスドッティルのメタコスモス。これは日本初演。後半にブルックナーの交響曲第7番。

ソルヴァルドスドッティル:メタコスモス

2017年に出来た曲ですから、バリバリの現代音楽です。でも、編成こそ大きいものの、奇妙奇天烈なものではなく、音の波が変化していく様を描くような印象を持ちました。20分弱の作品。悪くないです。これが40分だったら飽きてしまったかもしれませんが。

ブルックナー:交響曲第7番

「素朴」とか「朴訥」という世界からは離れた、壮麗な演奏でした。4番のときもそうでしたが、クライマックスでは都響から地響きのような凄まじい音が。都響からこれを引き出せるのはアラン=タケシだけであるように思います。

いろいろと面白い企てがあったのですが、奇を衒う感じはありませんでした。これは解釈が一貫しており、説得力があるからでしょう。単なる「効果狙い」ではないということですね。

この演奏、私は支持します。Bravo でした。次は5番、そして6番を聴いてみたいです。

オーケストラについて

コンマスは矢部さん。サイドに四方さん。矢部さんの動きを見ていると、演奏というものは指揮者とコンマスの共同作業であることがよくわかります。毎度のことですが、本当にすごい。

ブルックナーで重要なのはヴィオラセクションですけれど、この日の都響は前4人が店村、鈴木、石田、村田さんという布陣。それはそれは重厚な響きで、感銘を受けました。

木管は、オーボエになんとN響の吉村さん。フルートは柳沢さん。ファゴット岡本さん。クラリネットは直前変更だったそうで、元新日フィルの重松さん。みなさん素晴らしいのですが、吉村さんのソロにはとりわけ説得力がありました。

ホルンのトップは群響の濱地さん。この人、うまいのはわかるんだけど、ちょっと自己顕示欲が強いかなと思わせられるところがあって、どうかなと。西条さんはワーグナーチューバに回っておられましたが、Bravo でした。

ブルックナーでのオーケストラの鳴りっぷりは、圧巻の一言。

素晴らしい演奏会でした。ありがとうございました。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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