明快と明晰の間の距離:日本フィルハーモニー交響楽団第742回東京定期演奏会

東京の音楽会状況はコロナ前に戻りつつあって、以前のように大曲がバッティングすることも増えてきています。この日のメインであるブルックナーの交響曲第7番は、つい先々週にセヴァスティアン・ヴァイグレ/読響の名演に接したばかり。ヴァイグレの演奏があまりにも素晴らしかったので、日フィル贔屓の私としては、ちょっと不安と期待を抱きながらサントリーホールへ。

曲目は前半にブルッフのスコットランド幻想曲。ソリストは米元響子さん。ハープは日フィルの松井さん。後半にブルックナーの交響曲第7番。

ブルッフ:スコットランド幻想曲

これは名演でした。冒頭部でトロンボーン1、2とバストロンボーンが静かに歌うところがあるのですが、これが実に素晴らしく、ここで決まった!と言えるほど。第一トロンボーンは期待の伊藤さん。第二トロンボーンはエキストラでショートカットの若いお嬢さんでしたけど、よかったです。

ソリストの米元響子さん、私は初めて聴かせていただいたのですが、素晴らしい。技巧の冴えはもちろんですが、非常に「大人の音楽」という印象を受けました。この曲では木管との絡みがあるのですが、とりわけフルートとの旋律の受け渡しはお見事でした。こういう場面では優れたコンミスのよう。この曲はいろんな要素が詰め込まれていると思うのですが、きっちり描き分け、とても良い演奏でした。私は今回初めてこの曲をちゃんと聴いた気がしました。

ホルンの信末さんも素晴らしい。最近、ずっと好調を維持していますよね。3番ホルンを吹いていたエキストラの人もよかった。

広上さんの解釈は明快。私、おどろおどろしすぎるブルッフは好みではないので、好ましく感じました。

ブルックナー:交響曲第7番

日フィルはあまりブルックナーを演奏するオケではなくて、以前にこの曲を演奏したのは2015年。このときの指揮はインキネン。前半にブラームスのピアノ協奏曲第一番、後半にブルックナーの7番という、ヘビー級のプログラムでした。あれから7年。日フィルの演奏能力の向上には、目覚ましいものがあります。

この日、管楽器群の演奏水準は先日の読響を凌駕していたと思います。ソロの技巧もさることながら、日フィルは定期演奏会では首席奏者を固定しているので、とりわけ木管のアンサンブルの質が高いのです。金管も、最近では伊藤さんの加入によってトロンボーンセクションが強力になりましたし、ホルンは日橋さんが抜けた穴を信末さんが埋めてますし。このブルックナーで彼はワーグナーチューバを担当していましたが、とてもよかった。トランペットのオッタヴィオの妙技は言うに及ばず。

あとは弦ですね。もちろん、安達さんの加入によってヴィオラがとても良くなっているのですが。

さて、ブルックナー。立派な演奏だったと思います。でも、賛否は分かれるでしょうね。私としては、好みではありませんでした。なぜかというと、前半のブルッフではプラスに働いた「明快さ」が、後半のブルックナーではマイナスに働いたからです。少なくとも私にとっては。

わかりやすい、いや、わかりやす過ぎるブルックナーであったと思います。なので、こういう演奏を好む方がおられることはよくわかります。ただ、私としては、近年のブルックナー演奏の潮流とも言うべき、非常に緻密で繊細で明晰な演奏を好みます。最近では、ヴェンツアーゴ/読響の3番、ルイージ/N響の4番、そしてヴァイグレ/読響の7番。(アラン=タケシ・ギルバートはちょっと違います。)

これは完全に好みの問題。広上さんはご自身の目的を見事に達成されていたと思います。でも、私は、そう、池上彰のニュース解説のようなブルックナー演奏だと感じてしまい…

でも、良い演奏会でした。ありがとうございました。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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