翻訳の難しさ〜メシアン作曲「アッシジの聖フランチェスコ」のライブ録音。シルヴァン・カンブルラン指揮、読売日本交響楽団

ある言語について非常に堪能であったとしても、翻訳するとなると話は別です。ましてや原典が、ある特殊な分野に関するものである場合、その分野に関する知識は必須です。 そのことを痛感させられたのが昨年の「アッシジの聖フランチェスコ」の上演でした。

東京のクラシック音楽界で昨年を代表する大きな出来事といえば、11月19日の読売日本交響楽団の定期演奏会であったかと思います。

たしか、「音楽の友」誌でのベスト・コンサートに選ばれたはずです。その場で聴いていても、世界的レベルでの名演だと感じました。とにかく凄かった。

メシアン畢生の大作の完全版日本初演。 ちなみに世界初演を指揮したのは若き日の小澤征爾。 小澤さんは日本にこの作品を最初に紹介した人ですが、そのときは抜粋版だったのでした。

フランチェスコ会の創始者である聖フランチェスコを題材として、敬虔なカトリックであり、神学的素養の深いメシアンが自らテキストを書き、作曲したオペラ。そのテキストは難解です。

昨年の公演の際にはステージ横に字幕が表示されていたのですが、私は神学上深刻な誤訳があったことに気づいてしまい、終演後に大名演だったのに残念だという趣旨のツィートを発信したのでした。

翌日翻訳者ご本人から、どこが間違っているのか教えて欲しいとのメッセージが届いてびっくり。3日後の再演までに修正したいとのことでしたので、ダイレクトメッセージをやりとりすること3時間。

正直、1ヶ所疑問が残るところがあったのですが、翻訳者の方がいずれ解決されるとのことでしたので、見切り発車しました。

この公演はCD化され、それが今日届きました。

誤訳は修正されていました。見切り発車の部分は… そのままでした。まあ、仕方ないですかね。

翻訳者の方に伺ったところでは、友人のフランス人にチェックしてもらっていたのだそうです。 残念ながら、その友人は神学に詳しくなかったのでしょう。

実は日本にはフランチェスコ会の支部があり、それに加えて聖書研究所まであります。 ほんとうは、こちらに事前チェックをお願いしておくべきであったと私は思います。 この作品には、それだけの手間をかける価値がありますし、こういうところで手間を惜しむべきではないと信じるからです。

そして私個人にとっては…  余計なことは言うもんじゃないな、という教訓となった経験でした(笑)。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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