2017年に下野竜也さんが音楽監督に就任してから年々演奏水準を向上させている広島交響楽団。その成果は昨年リリースされたブルックナーの5番のCDからも聴き取ることができます。下野さんは音楽監督に就任した2017年以降、毎年一曲ずつブルックナーを手がけていて、8番(2017年)、6番(2018年)、5番(2019年)。 そして今年は4番。11月13日(広島)、15日(大阪)という日程。大阪での予定が合わず、広島へと向かいました。カープ応援以外で広島に赴くのは、ブルックナーの6番を聴きに飛んだとき以来。
曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」と、ブルックナーの交響曲第4番。ベートーヴェンでのソリストは小山実稚恵さん。
ほんとは巨匠、ゲルハルト・オピッツさんの筈だったんですが、コロナのせいで…
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
現在の日本を代表するピアニストの一人である小山さんの演奏は、もちろん素晴らしいものでした。技巧の冴えはもちろん、さすがの様式感に唸らされました。
自らの技巧を誇示するというのではなく、オケに寄り添って高みへと登っていく演奏でした。どちらが主、どちらが従というのではなく、本当の意味での共同作業の趣があってよかったです。
アンコールは意外にも、「エリーゼのために」でした。どちらかというと通俗曲に分類されてしまいがちですが、名手で聴くと違いますね。Brava !
ブルックナー: 交響曲第4番
下野さんは驚異的にレパートリーの広い人で、若杉弘先生の遺鉢を継ぐ「初演魔」でもあるわけですが、ブルックナーは広響以外ではほとんど振っていません。2013年の読響(5番)、そして兵庫芸術文化(5、8番)くらい。
朝比奈先生の下で大フィルの指揮研究生としてスタートした下野さんにとって、ブルックナーはとても大切な作曲家なのではないかと推察します。「手兵」と呼びうるオケを持った今こそ、1曲ずつ丁寧に仕上げていきたいという思いがあるのでしょう。
私の世代の聴き手にとってのこの曲の原点は、なんといっても朝比奈先生。私は1980年の東京カテドラルでの演奏(日フィル)を聴いてます。そのあと実演で印象的だったのはシカゴで聴いたシノーポリ、ブロムシュテット/N響、近年ではアラン・ギルバート/都響。さて下野さんはどうするか。
冒頭の「ブルックナー開始」の弦の音量は控えめ。そこに乗ってくるホルンは、すごいプレッシャーだったでしょうね。でも無事に抜けて、オケに安心感が兆したなか、音量を上げていき、トロンボーン、チューバの強奏。全体を通して、中庸なテンポ。奇をてらうわけでもなく、かといって無骨でもなく、とても考え抜かれて設計された演奏であったかと思います。
白眉は第二楽章でした。とりわけ素晴らしかったのは、ヴァイオリンとチェロがピチカートで伴奏するなかでの、ヴィオラの歌。惚れ惚れする美しさ。ホルンの合いの手がちょっと不安定になる部分がありましたが、ヴィオラセクションの歌心で乗り切った感がありました。
アラン・ギルバート/都響の際には第四楽章に超絶的な弦の最強奏があって度肝を抜かれましたが、あれは一種、「異形」の凄みであったかと思います。下野さんの場合はそういうことではなく、フォルティッシモは「ここぞ」までとっておく演奏。やはり設計が良いのですよね。
オケについて
ホルンのトップは読響のトップを長年つとめられていた山岸博さん。「客演首席奏者」というタイトルだそうです。メンバー表を見るまで気がつきませんでしたが、4番ホルンは同じくN響で長く吹いておられた山本真さんでした。なんだか懐かしい気分です。
終演後、下野さんがまず立たせたのは山岸さん。ついで、安保さん率いるヴィオラセクション。第二楽章が素晴らしかったですからね。
コントラバスのトップはN響主席の吉田秀さんが客演されてました。
金管では、トロンボーン、チューバセクションが特にお見事。「ブルックナーはこうでなくっちゃ!」と言いたくなるほどに豪快に吹いてました。こういうあたりは朝比奈先生の演奏を思い出させるところがありましたね。
ただ、ホールが…
広島文化学園HBCホールというところだったのですが、残響に問題があって、オケが綺麗に響かないんですよね。オケに味方しないホールというのは困りものです。これからの広響の飛躍を阻害する要因にもなりかねません。
広島にも、良いホールが必要です。うーん、やっぱり「樽募金」やりますかね。マツダスタジアムのときみたいに。