これからのクラシック音楽界を担う若手指揮者のうち、このコロナ禍にもかかわらず、日本に足を運んでくれる世界的な存在が二人。それはカーチュン・ウォンと、アンドレア・バッティストーニです。バッティ(オケからも呼ばれる愛称)は1月に続いて2度目の来日。日和って来日を回避する常任指揮者クラスが散見される中、彼の熱意には感謝です。
さて、そんなバッティと東フィルの演奏会の曲目は、前半がピアソラのシンフォニア・ブエノスアイレス(日本初演!)、後半はプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」組曲からの抜粋。
ピアソラ:シンフォニア・ブエノスアイレス
これはたいへんに色彩豊かで、素晴らしい曲でした。この曲にはバンドネオンが独奏楽器として登場するのですが、演奏されたのはわが国での第一人者である小松亮太さんと、北村聡さん。いやいや、堪能しました。私はバンドネオンとはアコーディオンの1種だと思っていたのですが、全然別の楽器ということを今回知りました。アコーディオンは左手だけで蛇腹を伸縮させるのに対し、バンドネオンは両手を使うのだそうです。
この曲の初演を振ったのは、あのイーゴリ・マルケヴィッチ。ああいう人でないと、この曲は面白くならないというわけですよ。そして、たぶん凡庸な指揮者では振れないと思います。
で、バッティ、素晴らしかったです。オケをfffまで鳴らしても、バランスが崩れません。これはすごいことです。バンドネオンのソロも、ちゃんと聞こえます。こう書くと、整然としたクールな演奏であったように思われるかもしれませんが、さにあらず。たいへんに情熱的な演奏なんですよ。でも必要以上に煽ったりはしないのです。管の首席奏者たちの自発性を尊重しつつ、自分が欲しい音を手に入れるという… このあたりが、この指揮者の凄みかと。
面白かったのがバンドネオンの配置。コントラバスとコントラファゴットの間でした。私は指揮者の前に配置されるのかと予想していたので、ちょっと意外でした。私が聴いたのはサントリー・ホールでの演奏でしたが、音響に問題のあるオーチャードでも配置が変わらなかったのか、興味があります。
プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」組曲から
ヴェローナを舞台にした曲を、ヴェローナ出身のバッティが振るという趣向。ただし、戯曲化したのはイギリス人で、作曲者はロシア人ですが。
こういう曲をバッティが振る以上、悪くなる筈がありません。もちろん名演で、大拍手。個人的に面白かったのは、非常に絵画的な演奏であったこと。バッティは劇場人であるわけですが、「踊れる」という感じではありませんでした。各曲を交響詩のように描くというとお分かりいただけるでしょうか。
たいへん素晴らしい演奏で、とても楽しむことができましたが、この曲に関していえば私はラザレフ指揮の日フィルの演奏に軍配を上げます。リズムの切れと、絵画的描写を両立させた演奏でした。まあ、34歳のバッティにそこまで期待するのはフェアではありませんね。今後のさらなる成長に期待しましょう。
オケについて
出色だったのがクラリネットのベヴェラリさん。コンマスよりも演奏をリードする凄さ。あとホルンの高橋さん、よくぞバッティの要求に応えた! Bravo ! ファゴットのチェ・ヨンジンさんは私は初めて聴いたのですが、ファゴットに聞こえないくらいにヴィヴラートをかけていて、あれは指揮者の指示だったのか…
東フィル、大熱演でした。みなさん、バッティのことが好きなんだな、と。
バッティをこのまま帰国させてしまうのはもったいないですね。来月のラフマニノフも振ってもらいたいと切に思いました。