指揮は沼尻竜典。 実力派ソプラノのエディット・ハラーを迎えての曲目は
前半がベルクの歌劇「ヴォツェック」より3つの断章。
後半はマーラーの交響曲第1番。
若手だと思っていた沼尻さんも、もう54歳。私たちが大学生のころのホルスト・シュタインの年齢です。そう思うと感慨深いものがありますね。
ベルク: 「ヴォツェック」より3つの断章
ヴォツェック。20世紀を代表するオペラであることはたしかですが、ストーリーがあまりにも陰惨なので、実は通して聴いたことがありません。CDは3組持っているのですけれど。
エディット・ハラーはバイエルン州立歌劇場でローエングリンのエルザを歌っている実力派。深みのあるソプラノで、表現力がすごい。彼女が歌うと空気が変わります。
この手の曲だと、やはり母国語とする歌手が歌うことが望ましいですね。歌詞のニュアンスが余すことなく表現されて、凄みが増します。
沼尻さんもリューベック歌劇場、びわこオペラと劇場経験を積んでいるだけあって、きっちりした伴奏でした。名演でしたが、曲が曲だけに大盛り上がりというわけにはいかず、ずっしりと重いものを残して前半が終了。
マーラー: 交響曲第1番
11月から12月にかけて、東京ではマーラーの1番の演奏が連続しました。ズービン・メータ指揮のバイエルン放送交響楽団、ダニエル・ハーディング指揮のパリ管弦楽団、そしてこの日フィル。
この3つの中から沼尻/日フィルを選ぶのは私くらいかもしれませんが、それはずっと注目している沼尻さんの解釈を味わいたかったから。
盛ったり煽ったりすれば大受け間違いなしの曲ですけれど、第1楽章は地味めにスタート。かなり抑えてましたね。テンポを揺らすこともなく、金管群に咆哮させるでもなく、ひたひたと前進。楽章を追うごとにだんだんとテンションが上がってきて、第4楽章のクライマックスの構造感は、むしろブルックナーのようでした。私は、虚心坦懐にスコアを読むとこうなるのかもしれないな、と思いながら聴いておりました。
よい演奏でした。山は高きが故に尊きにあらず、ですよ。
オケについて
前々日にカスタム・ウインズの演奏会があったため、ホルン首席の丸山さんと、ファゴット首席の鈴木さんはお休み。そのせいなのかはわかりませんが、木管で第1楽章にちょっと縦の線がずれるところがあったのは残念。
ティンパニのパケラさんもお休み。びっくりしたのは、その代わりに森さん(昔の首席ティンパニ)が登場したことでしょうか。ひさしぶりです。森さん、元気にガンガン叩いておられました。