山は高きが故に尊きにあらず: 日本フィルハーモニー交響楽団 第706回東京定期演奏会

指揮は沼尻竜典。 実力派ソプラノのエディット・ハラーを迎えての曲目は

前半がベルクの歌劇「ヴォツェック」より3つの断章。
後半はマーラーの交響曲第1番。

若手だと思っていた沼尻さんも、もう54歳。私たちが大学生のころのホルスト・シュタインの年齢です。そう思うと感慨深いものがありますね。

ベルク: 「ヴォツェック」より3つの断章

ヴォツェック。20世紀を代表するオペラであることはたしかですが、ストーリーがあまりにも陰惨なので、実は通して聴いたことがありません。CDは3組持っているのですけれど。

エディット・ハラーはバイエルン州立歌劇場でローエングリンのエルザを歌っている実力派。深みのあるソプラノで、表現力がすごい。彼女が歌うと空気が変わります。

この手の曲だと、やはり母国語とする歌手が歌うことが望ましいですね。歌詞のニュアンスが余すことなく表現されて、凄みが増します。

沼尻さんもリューベック歌劇場、びわこオペラと劇場経験を積んでいるだけあって、きっちりした伴奏でした。名演でしたが、曲が曲だけに大盛り上がりというわけにはいかず、ずっしりと重いものを残して前半が終了。

マーラー: 交響曲第1番

11月から12月にかけて、東京ではマーラーの1番の演奏が連続しました。ズービン・メータ指揮のバイエルン放送交響楽団、ダニエル・ハーディング指揮のパリ管弦楽団、そしてこの日フィル。

この3つの中から沼尻/日フィルを選ぶのは私くらいかもしれませんが、それはずっと注目している沼尻さんの解釈を味わいたかったから。

盛ったり煽ったりすれば大受け間違いなしの曲ですけれど、第1楽章は地味めにスタート。かなり抑えてましたね。テンポを揺らすこともなく、金管群に咆哮させるでもなく、ひたひたと前進。楽章を追うごとにだんだんとテンションが上がってきて、第4楽章のクライマックスの構造感は、むしろブルックナーのようでした。私は、虚心坦懐にスコアを読むとこうなるのかもしれないな、と思いながら聴いておりました。

よい演奏でした。山は高きが故に尊きにあらず、ですよ。

オケについて

前々日にカスタム・ウインズの演奏会があったため、ホルン首席の丸山さんと、ファゴット首席の鈴木さんはお休み。そのせいなのかはわかりませんが、木管で第1楽章にちょっと縦の線がずれるところがあったのは残念。

ティンパニのパケラさんもお休み。びっくりしたのは、その代わりに森さん(昔の首席ティンパニ)が登場したことでしょうか。ひさしぶりです。森さん、元気にガンガン叩いておられました。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

詳しいプロフィールはこちら