以前に書いたことがあるけれど、私が飯守泰次郎さんの音楽に初めて接したのは1983年10月21日。感銘を受けた私は1ヶ月後の11月18日に、日生劇場に「魔笛」を聴きに出かけています。日生劇場20周年記念企画で、飯守さんが「魔笛」と「コシ」、秋山さんが「ドン・ジョバンニ」と「フィガロ」を振るというものでした。そのあと1985年2月には日フィルの定期(プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」)を聴いています。そう、私はこのころから飯守さんを聴いて来たのです。
日生劇場のプログラムに載っていた飯守さん。38年前。
コロナの影響で外来指揮者の公演が軒並みキャンセルとなったのは残念でしたが、一方で日本の若手と、老大家の指揮に接することができるようになったのは大きな恵みでした。飯守さん、秋山さん、尾高さん、井上ミッキーさん…
飯守さんのブルックナーを聴けるのは私にとっては本当に嬉しいことで、6番(大フィル)、7番(東響)に引き続いて今宵の4番となりました。
曲目は前半がモーツアルトの交響曲第35番「ハフナー」。後半がブルックナーの交響曲第4番。
モーツアルトの交響曲第35番「ハフナー」
昨年飯守さんが大フィルとブルックナーの6番をやった時も、前半は「ハフナー」でした。(そのときの様子はこちら)
当たり前ですが、基本的には同じ解釈。ただ、今回の方が弦が機敏で、美しい。これは日下コンミスのおかげでしょうね。
木管の後列、クラの金子さん、ファゴットの吉田さん、武井さんの音がよく聴こえます。モーツアルトはこうでないといけません。美しいアンサンブル。
ひとことで言うと、「老人の叡智」と言うべき演奏だったと思います。やはりモントゥーの演奏を連想してしまいました。
ブルックナー:交響曲第4番
私がこの曲を実演で初めて聴いたのは1980年。東京カテドラルでの朝比奈先生の演奏で、オケは日本フィルでした。以来、かなり多くの演奏を聴いて来ましたが、近年とくに印象に残ったのはアラン=タケシ・ギルバート/都響による、オーケストラの機能性の極限を追求するような演奏。第四楽章は聴いていて身震いする凄さ。
機能性という点で都響に引けを取らない読響ですが、まったく異なる結果となりました。強いて言えば「劇場的な」演奏。管楽器、とくに木管楽器のソロが歌手のように聴こえます。6番、7番のときにはそんなことは感じなかったのですけれど。飯守さんにとっては4番の演奏頻度が高いので、よりご自分のやりたいように出来たということでしょうか。
私はこの演奏はとても美しいと思いました。なんというか、惜別の歌と言うか。70分にわたって、絵巻物を鑑賞するような感覚を味わいました。この曲でそんなことを思ったのは初めてのことでした。
オーケストラについて
4番と言えばホルンですが、この日は日橋さん。正直、あまり調子は良くなかったのではと思うところがありましたが、それでも素晴らしい。さすがでした。
木管のトップは敬称略でフルート倉田、オーボエ蠣崎、クラリネット金子、ファゴット吉田。実に素晴らしいアンサンブル。今日の飯守さんの解釈だと、フルートはドブリノフさんより倉田さんで正解だったように思います。金子さんも実に素晴らしい。お見事。
日下さんのリードは飯守さんの意図を鮮やかに変換する趣きがありました。素晴らしいですね。