きわめて緻密な、しかし暖かい手触りの第九:読売日本交響楽団 第124回みなとみらい名曲シリーズ

年末になると、「さて、今年はどのオケの第九を聴こうかな」と悩むのは、我が国の好楽家にのみ許されている贅沢。私の場合、今年は今日(26日)の読響と、29日の東響。本来であれば、これに加えてアラン=タケシ・ギルバートの都響を聴けるはずだったんですけどねぇ。

みなとみらいホールは来年から改修工事に入るので、しばらくはここに足を運ぶこともなくなります。そんなことを考えながら、いかにも年の瀬らしい人波をかき分けるようにして歩いて、ホールに到着。ここの開演前の合図はベルではなくて、客船の出航時に鳴らしていた銅鑼です。ホールのロゴが氷川丸であることも合わせて、いかにも横浜らしいですし、日本郵船出身者としては、ちょっと嬉しい。

さて、今日の曲目は第九のみ。指揮はセバスティアン・ヴァイグレ。合唱は新国立劇場合唱団。ソリストは森谷真理(ソプラノ)、ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(メゾ・ソプラノ)、AJ・グルッカート(テノール)、大沼徹(バリトン)。

第一楽章

テンポは中庸。今月9日のブルックナーでは時おりアッチェレランドをかけていましたが、さすがにベートーヴェンでは、それはなし。すぐに気がついたのは、非常に緻密な演奏が志向されているのだということ。旋律の受け渡しの精密さが、手に取るようにわかります。ときどきホルンが強調されるのは、元ホルン奏者としてのヴァイグレのこだわりでしょうか。

静かな湖面に浮かぶ月を愛でるような第一楽章でした。

第二楽章

ティンパニの鋭い叩き込み、弦の刻み。緊迫感は第一楽章よりもひたひたと増していきます。木管のバランスに細心の注意が払われていることがよくわかります。オケ、大変だろうなあ。

第三楽章

この楽章は第二ファゴットの虹をかけるようなソロから始まるんですが、岩佐さん、すばらしかった。今日の演奏の白眉は、間違いなく第三楽章でした。ミリ単位の緻密さなのですが、手工芸品のような暖かい手触り。これはヴィオラ、チェロ、ファゴット、ホルンといった中音域でのヴァイグレの音作りが巧みであり、かつ該当する読響のセクションが強力だからこそ可能になった果実といえましょう。素晴らしい。酔いました。

第四楽章

「あの」旋律はぐっと絞ったピアニシモで奏でられました。そしてファゴットのコラールのようなところ、良い音が出せる音量で吹かせてくれるのがさすがヴァイグレ。ときとしてここの部分でヴィオラを強調するアホな指揮者がいるのですが、そんなことはもちろんなし。

声楽が入ってきた途端に、オケがピットに入っているような錯覚に陥りました。合唱がP席にいて、ソリストがオケの後ろ、P席のすぐ前にいるからなのかもしれませんが、オペラのように聴こえるんです。

合唱は男声16人、女声24人という少人数で、とても明晰に歌い、ソリストも声量を競うような歌い方をしないので、本当にオペラの場面のよう。 歌詞が綺麗に聴き取れます。 これはヴァイグレが優れたオペラ指揮者であることの結果でもあるのでしょうね。

クライマックスに向けても、変に煽り立てるようなことはなく、音楽の持っている自然な力が高揚し、終わりました。素晴らしい演奏であったと思います。

オケについて

木管は敬称略で、金子(オーボエ)、ドヴリノフ(フルート)、金子(クラリネット)、吉田(ファゴット)という読響のベストメンバー。とりわけ金子さんのオーボエはお見事でした。

弦は10型。つまりチェロ5本、コントラバス4本なんですけど、中低音は厚い響き。やっぱり音質が良いんでしょうね。柳瀬さん率いるヴィオラも立派でした。

ヴァイグレと読響

ヴァイグレの美質は、中低音域での音作りの巧みさにあると、あらためて感じました。読響はヴィオラ、チェロ、ファゴット、ホルンが強いので、この組み合わせにはおおいに期待できますね。年明けにチャイコフスキー(!)が予定されているので、これがどんな風に鳴るのか、とても楽しみです。

素晴らしい演奏会でした。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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