300席のホールで聴く荘村清志さんのロドリーゴという贅沢:川崎室内管弦楽団第3回演奏会

坂入健司郎さんという若い指揮者がいます。1988年生まれですから、今年で31歳。音大ではなく慶應の経済を出て、いまはスポーツ庁に籍を置いているので、日本の楽壇的にはアマチュアの指揮者ということになるのでしょうか。でも、そんなことはどうでも良いくらいに音楽性が優れていて、私はこのひとの大成を心から期待しています。今をときめくクリスティアン・ティーレマンだって音大卒ではありませんからね。そんなことは本来、問題ではないはずです。

その彼が組織したプロの団体である川崎室内管弦楽団の第3回演奏会。私はささやかながら寄付をさせていただいている関係上、お招きをいただきました。場所は代々木公園の白寿ホール。主に小編成の室内楽の演奏会で使うホールですね。300席ですから。

曲目は前半がハイドンの交響曲第85番「王妃」とロドリーゴの「ある貴紳のための幻想曲」。ソリストはギターの第一人者である、荘村清志さん。後半はストラヴィンスキーのプルチネルラ。管弦楽曲版ではなく、歌のソリストが入る1965年全曲版です。

ハイドン:交響曲第85番「王妃」

「完全対向配置」での演奏。単に第一バイオリンと第二バイオリンが対向なだけではなくて、ヴィオラを中心にしてチェロとコントラバスも半分ずつに分かれるという面白い配置。木管は通常通り。

弦のメンバーの若さが迸り出るような、溌剌とした演奏。ホールが小さいので、響きが飽和するのではという危惧がありましたが、ギリギリ踏みとどまった感がありました。

こういう優れた演奏を聴くと、吉田秀和さんだったかな? 日本のオケのハイドンが実はとても素晴らしいことを世界に知らしめないといけないと仰っていたことを思い出します。個人的にはもっとハイドンの交響曲を聴きたいですね。以前、日本フィルの企画の方に「ラザレフのハイドンを聴きたい」とリクエストしたのですが、あっさり却下されました。でも聴いてみたい。

 

ロドリーゴ:「ある貴紳のための幻想曲」

私、今回、はじめてこの曲の真価が理解できました。この曲は大ホールでPAを使ってはダメなんですね。ギターの生音が聴き取れるサイズの箱でないといけないということを痛感しました。

楽器編成としてはちょっと変わっていて、ピッコロ、トランペットまで入っています。なので、音量面でのバランスをとるのが難しい。録音であればミキサーをかけて解決できますが、生だとそれは指揮者の力量が頼りとなります。

坂入さんのバランス感は素晴らしくて、最初から最後までギターが朗々と響くのが聴こえました。これはなかなかすごいことです。

荘村さんのソロも、今更私が言うまでもありませんが、素晴らしい。さすが、第一人者。レスピーギの古代リュートのためのアリアのシチリアーナを思わせる第二楽章は、絶美でした。いやいや、すごい。堪能しました。「眼福」という言葉ありますが、「耳福」でした。

終演後、荘村さんとちょっとお話しする機会があったのですが、芸歴50年の中でも、会心の出来映えであったご様子でした。

 

ストラヴィンスキー:プルチネルラ(1965年全曲版)

ストラヴィンスキーのあらゆる作品の中で、私はこの曲が一番好き。そんなに実演に恵まれる曲ではないので、無理をしてでも聴きに出かけるようにしていますが、油断していてこのあいだの紀尾井を聴き逃したのは今年最大の痛恨事。

オケにとっては難曲なのですけれど、若い気鋭の弦の奏者たちが果敢に挑んでいくのは壮観でした。菅はベテランの人たちが技巧全開。素晴らしかったです。

歌のソリストたちも健闘してました。

 

オケについて

コンミスの毛利さん、第二バイオリン首席の石上さんは、「寄らば斬る」の感があって圧巻。コントラバスのトップも出色。

オーボエのトップは読響の浦さん。ふだんは2番を吹いておられるのですが、もともとは日フィルのトップ奏者。過度に歌うことなく(歌いたくなる曲だとは思うのですが)、音程、音色、素晴らしい。ファゴットは日フィル首席の鈴木さん。この曲のファゴットはとても難しいのですけれど、もう全開で素晴らしかった。Bravo でした。トランペットとトロンボーンは横浜シンフォニエッタでトップを吹いておられる方々とのことで、決めるところをちゃんと決めて、立派でした。

すばらしい演奏会でした。感謝です。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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