どうやらルイージの時代が来たようだ:N響第1943回定期演奏会

1959年1月生まれですから、もうすぐ62歳になるファビオ・ルイージ。ジェノヴァ生まれの堂々たるイタリア人でありながら、指揮者教育を受けたのはオーストリアのグラーツ(カール・ベームの故郷)で、師匠はミラン・ホルヴァート(クロアチアの巨匠)。

グラーツ歌劇場のコレペティトールとしてキャリアをスタートし、そのあとのポストもヴィーン、ドレースデン、チューリッヒとなると、イタリアの指揮者というよりも、中欧の指揮者ですよね。N響との過去の共演も大成功していて、相性の良さについては疑問の余地なし。あとは、彼が来てくれるかどうか、であったわけです。

私たち日本の好楽家にとって嬉しいことに、ルイージは首席指揮者のポストを引き受けてくれました。今回の公演は、「次期首席指揮者」としての登場です。(任期のスタートは来年の9月なので。)

曲目はブルックナーの交響曲第4番。19:30スタート、休憩なしというコロナ対策バージョンの演奏会。ステージへのオーケストラの登場も、まずは管楽器が並び、そのあとにルイージが登場。そして弦楽器が入ってくるという方法でした。

ブルックナー:交響曲第4番

実に美しい、「天国的」とも言うべき演奏。私はこれほど美しい4番に接したことはありません。その一方で、朝比奈先生の雄渾な演奏を懐かしく思ったのも、また事実ですが。

第一楽章冒頭の弦の微細な表情! これに合わせるとなるとホルンは滅茶苦茶しんどいなと思って聴いていたら、そこは無理をさせず、安全に吹ける音量でした。 この日、ホルン首席の今井さんは調子が良かったとは言いがたく、そこに配慮するあたり、さすがは練達の劇場指揮者。(セヴァスティアン・ヴァイグレにもそういうところがありますよね。)

全曲を通じて、弦楽合奏の精緻なことは驚異的でした。まさに弦楽四重奏を大きくしたような緻密さ。加えて、各声部とダンスするようなルイージの指揮。ブルックナーがヴィーンの音楽家であることをあらためて思い起こします。

N響の合奏力もフルに発揮された趣きがありました。一例を挙げれば第三楽章のホルンとフルートの歯車を合わせるような細かいところ。ホルンの不調を補って余りあるフルート首席神田さんの素晴らしさ。(あそこを何事もなかったようにピッチリ合わせたヴァント/ベルリン・フィルはさすがでしたね。余談ですが。)

クライマックスへの設計も、さすがの一言。それに応える盤石のトロンボーン、チューバ。

朝比奈先生やヨッフムの演奏が大伽藍を広場から仰ぎ見る感があるのに対して、ルイージの演奏は、大聖堂の中に入って、ステンドグラスの壮麗な美しさを見上げて感嘆する、そんな印象でありました。

オーケストラについて

木管は敬称略でフルート神田、オーボエ吉村、クラリネット伊藤、ファゴット宇賀神。今さらながら、神田さんは恐ろしく音楽的。そしてN響の低音金管群は、ドイツの音がしますね。素晴らしい。

さて、20日金曜日には鈴木優人さんが読響を振って同じ曲を演奏する予定です。しかも、同じホールで! どのような対比が聴けるのか、今から楽しみです。

素晴らしい演奏に、鳴り止まぬ拍手。一般参賀もありました。(この写真はN響の twitter から拝借したものです。)

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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