気がつけばインバル先生も86歳とのこと。私の大学生から社会人への移行期はちょうどインバル/フランクフルト放響のマーラー全集の進行と重なっていて、初任地であった神戸のレコード屋にインバルの大きなポスターが貼ってあったことをなぜかはっきり覚えています。あれから40年弱の時間が流れ、そりゃインバルも年をとるわけですよね。とはいえ私よりもよっぽどお元気なご様子ですが。
さて、今年の年末を飾るインバル三連打の一発目に当たる都響のB定期を聴いて来ました。曲目は前半にウェーベルンの管弦楽のための6つの小品、後半にブルックナーの交響曲第4番(第1稿)。
ウェーベルン:管弦楽のための6つの小品
弦は矢部さん、四方さんのダブルコンマスをはじめ、双紙さん、遠藤さんと並び、ビオラは篠崎さん、鈴木さんの後ろに村田さん、石田さんが控えているという(以下略)強力な布陣。まあ、都響は本当に上手いですよね。
弦、管に勝るとも劣らず素晴らしかったのがパーカッション部隊。第4曲のアタマのバスドラを中心としたピアニシモの繊細な美しさには圧倒されました。
例えていえば、李朝の白磁を思わせる玲瓏な響きでした。素晴らしい。
ブルックナー:交響曲第4番(第1稿)
7月のロト/ケルン・ギュルツェニヒ管でこの曲をやっていたのですが、日曜日だったので私は未聴。ということで初めての実演となりました。
管が増強されて、4管編成に。弦がこれだけ強力だと、2管だと負けてしまいますよね。
この第1稿、とんでもなく面白いものでした。第1楽章と第2楽章は、旧知の人が普段と違う服を着て登場したという趣がありました。ネクタイが違っていたり、面白い形の靴だったりという感じ。でも、同じ人であることはわかる。
ところが第3楽章で、まったくの別人が登場。しかもこの人が話が長くてくどい。そろそろ終わるかな、と思っていると、話が最初に戻ってしまうという…
第4楽章になると、ああ、やっぱりあの人だったのね、と思うものの、もはやどうでも良くなっている自分に気づきます。この第1稿、面白いのは確かだけれど、また聴きたいとは思わないものでした。
とにかく普段聴いている版に比べると、とっ散らかり方が半端でなくて、逆にいえばブルックナーはよくぞこの状況から整理したなと感心しました。
演奏面では、インバルの指揮もさることながら、印象的だったのは矢部コンマスのリード。いつものことではあるのですけれど(それが凄い点なのですが)、コンマスとはかくあるべし、というオーラが発散されてました。Bravissimo !
ホルンの西条さんも卓越したソロを聴かせてくれました。冒頭はもちろんなのですが、第3楽章のくどい繰り返しは全てホルンから始まるものだったのですが、実に安定した演奏でした。さすが。
オーボエは新日の神農さんが吹いていたのですれど、ブルックナーに合う音色。ご本人ももしかするとブルックナーがお好きなのでは、と感じました。この人のブル5でのソロを聴いてみたいですね。
インバルのVerklärung?
今回ちょっと驚いたのは、いつもの峻烈さが和らいで、ちょっと透明感が出てきたように感じられたこと。とくにウェーベルンで感じたので、もしかすると曲によるのかもしれませんが。ただ、あのマゼールも最晩年のバイエルン放響とのマーラー全集でこんな感じになったので、インバルも大指揮者特有の輝く最晩年に到達しつつあるのかもしれませんね。(余談ですが、8月のデュトワからは1ミリも感じられませんでした。面白いものです。)
素晴らしい演奏会でした。