このところ週末には魅力的なコンサートが集中していて、どれに行くべきか頭を悩ませる好楽家は多いのではないでしょうか。6日金曜日もそんな日で、N響はディエゴ・マテウスの「幻想」、池袋の芸劇では井上道義/読響のマーラー3番、サントリーホールではリープライヒ/日フィルの「英雄の生涯」、みなとみらいでは川瀬/神奈フィル、新国立劇場では「椿姫」。こんな日の私の選択は、すみだトリフォニーでの新日フィル。私の大好きなストラヴィンスキーのプルチネルラを聴きたくて、東京を横断して錦糸町へ。
この日の指揮は才人デイヴィッド・ロバートソン。いかにも彼らしく、粋なプログラム。皮切りにストラヴィンスキーの「ダンバートン・オークス、そしてヘンデルを2曲。合奏協奏曲op6−1とオルガン協奏曲第1番。後半はコレッリの「クリスマス協奏曲」とストラヴィンスキーのプルチネルラ(1949年版)。要は「合奏協奏曲の夕べ」という感じですね。聴衆は7割くらいの入りでした。
ストラヴィンスキー:ダンバートン・オークス
国際法を学んだ人間には馴染みのある「ダンバートン・オークス」。私はワシントンDC郊外の地名だと思っていたのですが、個人の邸宅の名前とのこと。オーナーであるロバート・ウッズ・プリスは政治家であり、音楽愛好家で、彼のためにストラヴィンスキーが書いた曲。
「室内オーケストラのための協奏曲」と題されているように、各パートが技巧を披露します。こういう曲を聴いていて不安なく楽しめるレベルにまで日本のオケが成長したことは嬉しいですよね。この日のホルンのトップは読響首席の日橋さん。さすがに上手。
ヘンデル:合奏協奏曲op6−1
私が好きなop6-6であってくれれば良かったのにと思いますが、贅沢は申しますまい。生気溢れる、良い演奏でした。コンマスの西江さん、チェロの服部さん(東フィル首席)の掛け合いが美しい。ヘンデルの2曲ではファゴットの河村さんがコンティヌオで加わっていて、これがまた良かった。変にピリオド奏法でやらないのも私の好みです。
ヘンデル:オルガン協奏曲第1番
この曲は初めて聴きました。ソリストは水野均さん。オルガンの名手でもあったヘンデルが、自分の技巧を発揮するために作った華やかな曲。祝祭気分が盛り上がったところで前半が終了。
コレッリ:クリスマス協奏曲
いわゆる「合奏協奏曲」というジャンルを確立したと言われている曲。うるさい事は言わず、楽しむのが一番かと。良い演奏でした。
ストラヴィンスキー:プルチネルラ(1949年版)
声楽抜きの、管弦楽版。ストラヴィンスキーで始まり、ヘンデル、コレッリに遡ったのち、ストラヴィンスキーに戻ってくるというのが面白い。こうして聴いてみるとストラヴィンスキーの個性が際立ちますね。
オーボエ、古田さんのソロが美しい。ホルンとファゴットも、本当に上手。惚れ惚れします。トロンボーンは難ソロをなんとかクリア。まあ破綻しなかっただけ、良しとしないと。
デイヴィッド・ロバートソンの指揮は素晴らしかったです。生き生きとしたテンポ。各首席奏者たちの自主性を生かした演奏であったように思います。
オケについて
こういう曲を演奏するに際して、日橋さんを呼んできたのは正解だったでしょうね。全く危なげのない、しかも美しい演奏でした。オーボエの古部さんもブラヴォー。
私としてはファゴットの河村さんに感嘆。彼女の音は本当に素晴らしい。深みのあるドイツの音。私の理想の音に近いです。そして、この人が凄いのは、「攻める」姿勢。気迫を感じます。
後続世代だと東響首席の福士マリ子さんに期待。彼女はもう少し柔らかい感じですけれど。
寒い中、錦糸町まで出かけた甲斐がありました。新日フィルも良いですよね。遠いけど。