フィンランドの名産品というと、何を思い浮かべますか?
アラビアの陶器、イーッタラのガラス? それともマリメッコのファブリックでしょうか。
こういった伝統的な名産品と並んで、最近20年くらいフィンランドの名前を世界に轟かせている名産品があります。 それは… オーケストラの指揮者です。
クラシック音楽の愛好者であれば、次のリストは印象的であろうかと思いますが、いかがでしょうか。
レイフ・セーゲルスタム
オッコ・カム
オスモ・ヴァンスカ
エサ=ペッカ・サロネン
エサ=ペッカ・サラステ
ミツコ・フランク
ハンヌ・リントゥ
ピエタリ・インキネン
サカリ・オラモ
ヨーン・ストルゴーズ
オッリ・ムストネン
クラウス・マケラ
スザンナ・マルッティ
いずれも現在世界的に活躍している指揮者です。 全員がフィンランド人。 それだけではありません。 セーゲルスタムとカムの2人を除く全員が、シベリウス音楽院のヨルマ・パヌラ教授の門下生なのです。
以前、ミツコ・フランクが来日したとき、インタビューで「なぜ北欧から指揮者が輩出するのですか?」という質問がありました。
ミツコ・フランクは「北欧からではありません。フィンランドから、ですよ。」ときっぱり訂正していたのが印象的でした。
フィンランドの人口は550万人。人口で見れば、千葉県よりも小さな国です。なぜこのように優れた指揮者が生み出されるのでしょうか。
日本フィルの常任指揮者であるピエタリ・インキネンに直接聞いてみる機会がありました。今年の5月のことです。
インキネン自身、これが決め手だという答えは無いということでしたが、はっきりしたことが一つある、と教えてくれました。
パヌラ教授は、楽器奏者として一流でないと弟子に取らないという原則を貫いているのだそうです。
たしかに、インキネンは優れたヴァイオリン奏者で、名教師ザハール・ブロンの門下。わが国を代表するヴァイオリニストである庄司紗矢香の兄弟子。つまりインキネンはソリストとして十分に食べていける腕前であるわけです。
今年、22歳の若さで都響に衝撃的なデビューを飾ったクラウス・マケラは優れたチェロ奏者でもあり、ミュンヘンコンクールに入賞しているはず。
オスモ・ヴァンスカはヘルシンキ・フィルの首席クラリネット奏者でした。 スザンナ・マルッティは女性指揮者として初めてスカラ座を指揮した人ですが、この人も優れたチェロ奏者。
インキネン曰く、「サカリ・オラモだって、フィンランド放送交響楽団の首席ヴィオラ奏者だったんだよ。」
一つの楽器を名手の域までマスターして、はじめて指揮者の修行をスタートする資格があるということのようですね。 これは、指揮者を指揮者として養成するという昨今の傾向には相反する考え方で、たいへん興味深いものがあります。 しかも、この実績ですからね。
インキネンは10月にも来日します。また会う機会があるようですので、今度はもう少しつっこんでみたいと思います。
タイトルの写真は、この5月にインキネンと会って、馬鹿話をしているときのものです。 彼、たいへんなイケメンなんですよね。