ファミリービジネスの定義を考える

経営学の世界では、ファミリービジネスは、流行りのテーマになりつつあると聞きます。 最近のビジネス誌を見ていても、ファミリービジネスを扱う記事は確かに増えています。

しかし。 ファミリービジネスの定義は、未だにはっきりしていないのが現状です。 対象の定義が明確でないにもかかわらず、注目を浴びつつあるというのは、考えてみれば面白い現象ですよね。

昔、といってもほんの20年くらい前までは、ファミリービジネスはネガティブなイメージとともに語られていました。

新しい企業がファミリービジネスとしてスタートするのは仕方ないとしても、「早く脱却して近代的企業になるべきだ」という論調が大勢を占めていたように思います。

風向きが変わってきたのは、いわゆる「失われた20年」の間に、多くの日本企業の元気がなくなってきたあたりからです。こうなってくると元気の良い企業に注目して、その秘密を探ろうという研究が増えてくるわけですが、その多くがファミリービジネスであったのです。

では、どんな企業であればファミリービジネスであると言えるのか?

私は一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事を務めていますが、当研究所でさえ、ピチッとした定義を掲げているわけではありません。

法律上は同族企業という概念があり、この定義はしっかりしているのですけれど、この同族企業と、世間一般でぼんやりと理解されているファミリービジネスの輪郭は、どうも一致しないのです。

最近、ようやく「定説」が誕生しようとしています。それが「2018年版 ファミリービジネス白書」が掲げている定義です。どんなものか見てみましょう。

ファミリーが同一時期あるいは異なった時点において役員または株主のうち2名以上を占める企業。

です。よく考えられた定義で、私も敬意を評します。ただ、トヨタあたりはどうなるんでしょうか。

現時点で「同一時期」にファミリーの役員は豊田社長ひとりです。となると「株主」に現社長以外にファミリーメンバーが1株でも保有していればよいということになるんでしょうか。

つくづく学問は大変であると、私などは思ってしまいます。私は実務家ですので、もっと気軽に自分なりに定義を立てています。それは、

事業継承に際して、ファミリーのメンバーが後継者候補として選考の対象になる企業。

というものです。結果として後継者にならなくても良いのです。候補として俎上に上がるのであれば。

賢明な読者の方々はお気づきですよね。 白書の定義と私の定義は、そもそも用途が違うのです。

白書の定義の目的は、研究対象としてのファミリービジネス企業をカテゴライズすること。 私の定義の目的は、実際にその企業と仕事をする際に、ファミリービジネスとしての特殊性をどれだけ勘案する必要があるかを判断することです。

白書の立場だと、今のトヨタはファミリービジネスではないのかもしれません。

私の立場だと、どんなに豊田ファミリーの株式保有比率が低かろうが、現社長が選任された際に「大政奉還」などという言葉が紙面に踊ったことをみれば、堂々たるファミリービジネスであるということになるのです。

ファミリービジネス、ほんとに奥が深いですよね。(水野晴郎風に)

 

失礼しました。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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