コロナ禍により海外から音楽家が来演できないため、いままでだと珍しい日本人の指揮者とオーケストラの組み合わせを聴くことができるこの秋。今回は、なんと飯守泰次郎さんと日フィル。私の記憶にはありません。もしかすると初顔合わせなのではないでしょうか。台風が接近するなか、冷たい雨をかわしながらカラヤン広場を横切り、サントリー・ホールへ。
曲目は前半がシューベルトの「未完成」。今回は交響曲第7番と書かれていました。私は8番と表記してくれた方が馴染みがありますが。後半は福間洸太朗さんをソリストに迎えて、ブラームスのピアノ協奏曲第1番。
コンマスは扇谷さん。オケの編成は12型。指揮者を含めて、全員がノーマスク。弦の譜面台はプルト毎に1基。つまり、見た目はコロナ以前に戻ったということですね。
シューベルト:「未完成」
コロナによって大編成の曲を演奏しずらくなった昨今、この曲の演奏頻度が上がりましたね。私はこの日(9日)に日フィルで、翌10日は広響で聴く予定でした。(台風で広島行きはキャンセルしたのですが。)
飯守マエストロの「未完成」はゆったりしたテンポで、克明に刻んでいく演奏。リピートも励行したため、30分弱を要する「大演奏」となりました。「大時代的」と評する向きもあるかもしれませんが、私はこういう演奏は好ましく感じます。
重心の低い、堂々とした演奏。「グレイト」を想起しながら聴きました。いや、ほんとうに立派な演奏で大満足。日フィルも普段とは音色が違いました。
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
聞くところによると、今回この曲が選ばれたのはソリストである福間さんのリクエストによるのだとか。飯守マエストロとの共演が決まった際に、ぜひこの曲で、ということだったのだそうです。
日フィルは3年前かな? インキネン の指揮、アンジェラ・ヒューイットのソロで演奏してます。ヒューイットさんがファツォーリのピアノを持ち込んで弾きました。このときは前半がこの曲で、後半がブルックナーの7番というとんでもないプログラムでしたっけ。
さて、この曲は作品番号が15であることが示すように、ブラームスの若書きの曲。後年の2番に比べるとシンプルな部分はありますが、その一方で瑞々しさを感じさせて、私は好きです。とりわけ、冒頭の重厚なオケによる長めの序奏が終わった後、ピアノが出てくるところの叙情性はとても魅力的ですよね。
ところが金曜日の演奏は、まさにこの開始部に波乱がありました。管楽器が最強奏で出たのに対して弦は抑制的、しかもティンパニとの縦の線が乱れたために、いきなりバラけてスタート。その後も不安を湛えながら進行し、どうなることかと思ったのですけれど、福間さんのピアノが入ってきて軸が据わって落ち着きました。でも第一楽章はちょっとオーケストラ側に不安を感じさせつつ終了。
第二楽章に入って持ち直し、それ以降は良かったです。福間さんのピアノは素晴らしい。正直、これほどの力量の人だとは知らなかったので、嬉しい驚きでした。テクニックはもちろんのこと、際立ったのは叙情性。清新な演奏でした。
終演後は大拍手。何度も何度もカーテンコール。アンコールは無し。(2日目にはやったという話ですが。)
オケについて
木管は敬称略で、フルート真鍋、オーボエ松岡、クラリネット伊藤、ファゴット田吉。ホルンのトップはこの春入団の信末さん。トランペットはようやくイタリアから帰国できたクリストフォーリさん。お帰りなさい。
「未完成」ではホルンとファゴットが美しい虹の橋をかけるような部分があるのですけれど、とても良い出来栄えでした。田吉さんの音色はいいですよね。そして特筆すべきは信末さん。お見事でした。今後が楽しみです。
二日目のブラームスの冒頭部分、どうだったんでしょうね。さすがに大丈夫だったのだろうなと思いますが。