コバケン、畢生の「エロイカ」:読売日本交響楽団第231回土曜マチネーシリーズ

台風が来なければ、10月10日は広島に飛んで、河村尚子さんのベートーヴェン(ピアノ協奏曲第4番)を聴くはずでした。残念。そのリヴェンジではないけれど、今日は読響とのラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。土曜日の昼下がりの芸劇は、なんと9割近い入りでした。

曲目はグリンカの「ルスランとリュドミュラ」序曲、そしてラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。独奏は河村尚子さん。後半はベートーヴェンの交響曲第3番。指揮は80歳を迎えられた、コバケンこと小林研一郎さん。

グリンカ:「ルスランとリュドミュラ」序曲

この曲、最近はあまりやらないけれど、2~30年くらい前にはよく演奏されてましたね。いま70歳以上の指揮者の方々はみなさんレパートリーに入れておられることかと思います。音源だと、ムラヴィンスキーの超快速テンポの名演が懐かしい。

コバケンさんも快速テンポ。いまの日本のオケは格段にうまくなっているので、煽られても涼しい顔で飛ばしていきます。昔だったら事故が起きたかも。

柳瀬さん率いるヴィオラセクションが美しく主題を奏でて、ブラヴォーでした。

ラフマニノフ:「パガニーニの主題による狂詩曲」

聴く前から、実は不安がありました。河村さんのピアノにではなく、コバケンさんの伴奏に対して。

この曲には、「知る人ぞ知る」名盤があります。シューラ・チェルカスキーのピアノに、ルドルフ・ケンペ指揮のミュンヘン・フィルが伴奏をつけている演奏。大名人であったチェルカスキーが素晴らしいのはもちろんですが、ケンペの指揮が凄いんです。まるで精密機械。

さて、今日の演奏ですが、伴奏には不満が残りましたね、やはり。ゆっくり歌う変奏は良いのですけれど、リズムが立つ変奏だと、いかにも鈍い感じになってしまっていました。こうなると管の首席たちは指揮ではなくて直接ピアノに合わせざるを得ず、かなり大変だったのではと思います。河村さんもオケに合わせて弾く感じ。

卓越した技巧、多彩な表現、さすがは河村さん。素晴らしかったです。伴奏を機にすることなく楽しめたらもっと良かったのですが…

ベートーヴェン:交響曲第3番

前半に不満が残ったため、期待せずに臨みましたが、意外にもとても力の入った演奏となりました。コバケンさんがやりたかったことは、すべてやり尽くしたのではと思わせる大演奏。齢80になられたコバケンさんにとっては、「畢生のエロイカ」となったのではと思います。私は今までにコバケンさんのエロイカを少なくとも2回は聴いていますが、全然出来が違います。今回が断然、彼のベストでした。

テンポはじっくり、というよりもかなり遅め。とりわけ第二楽章は遅く、20分に近かったのでは。全体でも1時間に及んだのではと思います。最近ではこういうテンポ設定は珍しい。このゆったりしたテンポで、コバケン節が奏でられました。

このテンポを物ともせずに、コバケンの要望を100%叶えてみせた読響の献身ぶりには脱帽しました。よくぞここまで。

こういうベートーヴェンが好きかと問われると、私は賛成できないのですけれど、やりたいことをやり切った立派な演奏であることには疑いの余地はありません。

バーンスタインが最晩年にニューヨーク・フィルと録音したチャイコフスキーの4、5、6番を連想しました。あれも超主観的な演奏でしたけれど、今回のエロイカには、近いものがあったように感じました。

オケについて

コンマスは小森谷さん。隣には長原さん。第二ヴァイオリンのトップは瀧村さん? ヴィオラは柳瀬さん、チェロは遠藤さん。木管はフルート倉田さん、オーボエ蠣崎さん、クラリネット藤井さん、ファゴット井上さん。

蠣崎さん、お見事でした。あと素晴らしかったのはホルンの日橋さん。本当にうまいですね。

終演後、聴衆は分散ではなく一斉に退場。かなり密になりましたが、みんな段々と気にしなくなっているのでしょうかね。

 

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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