バッハの演奏家として世界的に尊敬されている鈴木雅明さんの、15年ぶりの読響への客演。 コンミスが日下紗矢子さんということもあり、期待が高まるなか、サントリー・ホールへ。
曲目は:
- クラウス: 教会のためのシンフォニア
- モーツアルト: 交響曲第39番
- メンデルスゾーン:オラトリオ <キリスト>
- メンデルスゾーン:詩篇第42番「鹿が谷の水を慕うように」
ソリストはリディア・トイシャー、合唱はベルリンから来日したRIAS室内合唱団。
前半はとても面白く聴きましたが、特に鈴木さんの棒で聴くまでもないかな、というのが率直な感想です。ですので、後半の2曲について。
メンデルスゾーン: オラトリオ <キリスト>
メンデルスゾーンは大傑作「エリア」をはじめてとして「パウロ」などの聖書に題材を取ったオラトリオを作曲しています。
ただし、この「キリスト」はもともと「地上、地獄、天国」という未完のオラトリオの一部であったものを、メンデルスゾーンの死後に編集されたもの。
2部構成で、第一部は「キリストの誕生」、第二部が「キリストの受難」。
面白かったのは第二部。 これはメンデルスゾーンにとっての「受難曲」と理解すべきものです。
メンデルスゾーンは、あのバッハの超名作「マタイ受難曲」を再発見し、復活演奏を成功させた人。このことを踏まえて聴くと、とりわけ面白くなってきます。
とくに、群衆がキリストを「十字架につけろ」と叫ぶ場面。 バッハとは違う工夫が凝らされていて、圧倒的な迫力でした。
この曲、私ははじめて聴いたのですが、もっと演奏されてよい曲だと思います。20分程度の短い曲ですし。バッハとの対照で聴くととても面白く聴くことができます。
メンデルスゾーン:詩篇第42番「鹿が谷の水を慕うように」
この曲、日本的な感覚でイメージすると間違えます。題材は旧約聖書ですので、舞台はイスラエル。カラカラの大地です。
鹿は、渇ききって死にそうな状態で、ワジ(枯れ川)をさまよっているのです。
こんな感じ。(イスラエルで撮ってきた写真です。)
それくらい強く神を求めるという信仰告白の詩なのです。
ここでの「谷」が枯れ川であるということがわからないと、
あなたの洪水は轟きつつ流れます。
というのも深みのあちこちが荒れ狂っているからです。
あなたの大波がみな打ち寄せ、わたしを越えていきます。
という歌詞を不思議に思ってしまうことでしょう。
ひとたび雨が降ると、枯れ川は我が国での土石流のような状態になります。だからこそこんなに凄いことになるわけですね。
マニアックなことを言えば、
深みのあちこちが荒れ狂っているからです。
という翻訳には違和感があります。
原文は
… hier eine Tiefe und da eine Tiefe brausen
なので、一つの深みに怒涛のように流れ込んだあと、次の深みへまた流れ込むという直線的な動きです。実際、メンデルゾーンの曲もそれを連想させる作りになっていました。
オケ、合唱団について
読響は鈴木さんの指揮にピッタリつけて、機能性の高さを遺憾無く示してくれました。器用なオケですね。
そして、何よりも日下コンミスの動きの音楽的なこと! 思わず唸ってしまいました。素晴らしい。
オーボエについては… ファゴットの井上さんは不調でいらしたようで、残念でした。クラリネットの金子さんは、ブラヴォーでした。
合唱団は、めちゃくちゃ巧かったです。
正直、この演奏会は、前半の二曲ではなくて他の合唱付きの曲(マニフィカトとか)をやってくれた方が良かったのに、と勝手なことを考えてしまいました。