「マタイ受難曲」復活演奏者であるメンデルスゾーンが、自ら作曲した「受難曲」を聴く〜読売日本交響楽団第582回定期演奏会

バッハの演奏家として世界的に尊敬されている鈴木雅明さんの、15年ぶりの読響への客演。 コンミスが日下紗矢子さんということもあり、期待が高まるなか、サントリー・ホールへ。

 

 

曲目は:

  • クラウス: 教会のためのシンフォニア
  • モーツアルト: 交響曲第39番
  • メンデルスゾーン:オラトリオ <キリスト>
  • メンデルスゾーン:詩篇第42番「鹿が谷の水を慕うように」

ソリストはリディア・トイシャー、合唱はベルリンから来日したRIAS室内合唱団。

前半はとても面白く聴きましたが、特に鈴木さんの棒で聴くまでもないかな、というのが率直な感想です。ですので、後半の2曲について。

メンデルスゾーン: オラトリオ <キリスト>

 

メンデルスゾーンは大傑作「エリア」をはじめてとして「パウロ」などの聖書に題材を取ったオラトリオを作曲しています。

ただし、この「キリスト」はもともと「地上、地獄、天国」という未完のオラトリオの一部であったものを、メンデルスゾーンの死後に編集されたもの。

2部構成で、第一部は「キリストの誕生」、第二部が「キリストの受難」。

面白かったのは第二部。 これはメンデルスゾーンにとっての「受難曲」と理解すべきものです。

メンデルスゾーンは、あのバッハの超名作「マタイ受難曲」を再発見し、復活演奏を成功させた人。このことを踏まえて聴くと、とりわけ面白くなってきます。

とくに、群衆がキリストを「十字架につけろ」と叫ぶ場面。 バッハとは違う工夫が凝らされていて、圧倒的な迫力でした。

この曲、私ははじめて聴いたのですが、もっと演奏されてよい曲だと思います。20分程度の短い曲ですし。バッハとの対照で聴くととても面白く聴くことができます。

 

メンデルスゾーン:詩篇第42番「鹿が谷の水を慕うように」

 

この曲、日本的な感覚でイメージすると間違えます。題材は旧約聖書ですので、舞台はイスラエル。カラカラの大地です。

鹿は、渇ききって死にそうな状態で、ワジ(枯れ川)をさまよっているのです。

 

イスラエルの枯れ川

こんな感じ。(イスラエルで撮ってきた写真です。)

それくらい強く神を求めるという信仰告白の詩なのです。

 

ここでの「谷」が枯れ川であるということがわからないと、

 

あなたの洪水は轟きつつ流れます。
というのも深みのあちこちが荒れ狂っているからです。
あなたの大波がみな打ち寄せ、わたしを越えていきます。

 

という歌詞を不思議に思ってしまうことでしょう。

ひとたび雨が降ると、枯れ川は我が国での土石流のような状態になります。だからこそこんなに凄いことになるわけですね。

マニアックなことを言えば、

 

深みのあちこちが荒れ狂っているからです。

 

という翻訳には違和感があります。

原文は

 

… hier eine Tiefe und da eine Tiefe brausen

 

なので、一つの深みに怒涛のように流れ込んだあと、次の深みへまた流れ込むという直線的な動きです。実際、メンデルゾーンの曲もそれを連想させる作りになっていました。

 

オケ、合唱団について

 

読響は鈴木さんの指揮にピッタリつけて、機能性の高さを遺憾無く示してくれました。器用なオケですね。

そして、何よりも日下コンミスの動きの音楽的なこと! 思わず唸ってしまいました。素晴らしい。

オーボエについては… ファゴットの井上さんは不調でいらしたようで、残念でした。クラリネットの金子さんは、ブラヴォーでした。

合唱団は、めちゃくちゃ巧かったです。

正直、この演奏会は、前半の二曲ではなくて他の合唱付きの曲(マニフィカトとか)をやってくれた方が良かったのに、と勝手なことを考えてしまいました。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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