鹿島茂と井上章一という碩学の対談本。楽しく読みました。なにせこのお二人は「ぼくたち、Hについて研究しています」という対談本を出しているくらいですから、内容は推して知るべし。読みながら、つらつら考えてみました。
なぜ京都とパリを比較して論じているのかというと、そこがすでに「いけず」です。 京都市(というか京都市役所)が過剰にパリを意識しているのに対して、パリはそんなこと全く考えていないからだそうです。さすが「京都嫌い」を書かれた井上先生。
ちなみにお二人のスタンスは、この二つの都市は似ていない、というものなんですね。
ひとことで言えば、京都とパリを肴に好き勝手に語った対談です。
あまり編集者は手を加えていないように思います。お二人の話は手加減無く脱線しまくるので、詳細な註がついています。「宮澤喜一」に註がついているあたりから推測するに、案外若い読者層も射程に入れているのでしょうかね。
面白いあたりをちらりちらりとご紹介すると、こんな感じです。
京都市役所の職員に、東京に出張することを今でも「東下り」という人がいるんですよ。私は「そんなの、おかしいやろ」と日文研に来たヨーロッパの人たちに同意を求めます。すると、イタリア人に言われました。「フィレンツェもそうだ」と。「ローマを田舎だと見下している」っていう。(井上)
パリのオペラ座周辺に日本人街が形成されたときにいたのは、ほとんど大阪人でしたね。気質的によく合うんですよ。なぜかというと、家族人類学的に、大阪はパリと同じで核家族なんですね。そうすると、メンタリティがすごくあうんですよ。(鹿島)
パリであんこというものに市民権を与えたのは「とらや」だからね。それまでは、あんこって、フランス人にとって気持ち悪い最たるものだった。ウサギのうんこにしか見えないから。(鹿島)
まあ、こんな話が250ページ続きます。 読んで人生が変わる、などということはないでしょうけれど、面白いことは保証します。
さて、この著者たちは「京都とパリは似ていない」という意見ですが、実は私も賛成です。
では似ている街はどこでしょうか? 私の答えは、イスタンブールです。この答えにはかなり自信があります。 理由をご説明しましょう。
1)どちらも文句なしの古都である: イスタンブールは、なんといったってコンスタンティノポリスですからね。京都よりも古いです。
2)頑張れば歩いて回れる大きさ: イスタンブールの方が坂が多いですけど。
3)中心部にでかい寺院がたくさん: ブルーモスク、アヤモスクがひときわ目立ちますが、これは東本願寺、西本願寺の存在感に匹敵します。
こんな感じ。
4)路地が入り組んでいる: イスタンブールは碁盤目ではありませんが。。。
5)どちらも手工芸の街である。
6)どちらも、今は首都ではなく、そのことについての屈折した感情がある。
7)中心部には昔の宮殿がある: トプカプ宮殿 vs 京都御所。
いかがでしょうか?