今日、上野駅に降り立ったら、公園口から東京文化会館まで道路を渡らずに行けるようになっておりました。コロナ禍で都響の定期がキャンセルになってしまったためか、ずいぶん久しぶりの上野であったことを認識しました。風が強くて、落ち葉が砂嵐のように舞うのを横目に、大ホールへ。
バッハ・コレギウム・ジャパンの記念演奏会や、井上道義さんのブル7と重なってしまったこともあり、客席は7割程度の入り。ソリストがアンドレイ・ガブリーロフなので二階席もL(鍵盤側)は埋まっているものの、私の席のあるRはガラガラでした。
さて、曲目はワーグナーのタンホイザー序曲、そしてモーツアルトのピアノ協奏曲第20番。休憩をはさんで、ブラームスの交響曲第4番。指揮は近年とみに評価を高めている沼尻竜典さん。
沼尻さんは私より4歳下。ほぼほぼ同世代ということで、彼の成長を見守って(聴き守って)来ました。あれはいつのことだったか、桐朋で1年上の仲道郁代さんが某雑誌に学生時代の思い出を書いていて、それが在学中にピアノ科の女の子たちでディズニーランドに行ったという回想の記事でした。実に可愛らしい仲道さんたちの写真に、一人写り込んでいる沼尻さん。「沼尻くんがどうしても一緒に来たいというので、荷物持ちに連れて行きました」との説明が… (沼尻さんにとっては、黒歴史かもしれませんね)
あれから30有余年。荷物持ちのアッシー君(?)は、「びわ湖リング」などで絶賛されるマエストロに成長。いやいや、感慨深いですね。
ワーグナー:タンホイザー序曲
私がこの曲をはじめて聴いたのは小学校の5年生のとき。父が買ってきたフランツ・コンヴィンチュニー/ゲヴァントハウスの録音でした。(ディートリッヒ=フィッシャー・ディースカウがヴォルフラムを歌っている盤です。)序曲の中頃の「ヴェーヌス賛歌」のところで、なんだかとてもいけない音楽を聴いてしまったような気がして、ドキドキしたことを覚えています。
今日の演奏は、冒頭のホルンのところからして非常に緻密なものでした。子音を大切に発音するイメージ。やっぱりリングを通して振った経験は貴重なものなのですね。沼尻さんがワーグナーを自家薬籠中のものにしておられることを感じさせる演奏でした。
モーツアルト:ピアノ協奏曲第20番
ソリストのアンドレイ・ガヴリーロフのデビュー盤の印象は鮮烈でした。まだソ連があった頃の話です。ラーザリ・ベルマンに続く、本当のヴィルトゥオーゾ。とにかく凄い人が出てきた、とびっくりしたものです。
65歳になった今でも超絶技巧は健在。でも、彼の場合は単に巧いだけではなく、彼の中にある音楽を十全に表現するためには、あの超絶技巧が必要なのだなと思わせるものがありました。なんだろう、ピアノが大きな玩具のような… 一般的に期待されるモーツアルトとは全く異なる演奏が展開されました。でも、これはこれで凄い。
オーケストラの序奏が開始されたとき、沼尻さんがアラ・ブレーヴェで振りはじめたのにびっくりしたけれど、ガヴリーロフが出てきた時点で納得。ああ、そういうことだったのか、と。ガヴリーロフは自分に完璧に合わせてくれたことが最高に嬉しかったようで、終演後に沼尻さんを抱きかかえ、ともに気持ちよさそうに拍手を浴びていました。いたずら好きの二人の子供、という趣があり、微笑ましかったです。
ブラームス:交響曲第4番
伝統的な様式ではないけれど、とても良い演奏。すっきりと、でも各パートに歌があり、それが実に良く聴こえてきます。
こういう演奏、誰だっけ… と記憶をたどって行き着いたのは、ルドルフ・ケンペ。力まず、伸びやかで美しい。帰宅後 twitter を眺めていたら、若杉弘さんを思い出したという方がおられて、それにも納得。若杉さんはケンペに親しみを覚えておられたと読んだことがあります。
私はこの演奏を非常に楽しみ、そして感心しました。Bravo ! 来年から沼尻さんが神奈フィルの音楽監督になられるということなので、期待したいと思います。彼の今後の円熟が楽しみです。
終演後の拍手が早すぎたのは、とても残念なことでした。今までの都響の演奏会では無かったことです。コロナの影響で聴衆の構成に変化が生じたのか…
オケについて
都響、やはり素晴らしく上手いですね。今日のコンマスは山本さん。木管は(敬称略で)柳原(fl)、鷹栖(ob)、サトー(cl)、そしてファゴットはシティフィルの皆神さんかな? みなさん、とても良かった。ホルンは岸上さんがトップを吹いていたように見えましたが、オペラグラスを忘れたので自信ありません。
サスペンダー爺さん
そうそう、東京のクラシック界で有名な、「サスペンダー爺さん」が復帰しておられました。モーツアルトの第一楽章と第二楽章の間に無理やり最前列まで移動して周囲の顰蹙を買い、休憩後もホールの係の方と何やら揉めていたのは相変わらず。懲りない人は懲りないのですね。