編曲の妙と演奏の妙技の相乗効果:アンサンブル・パストラーレ第3回演奏会

昨年の12月に旗揚げしたアンサンブルパストラーレ。早いもので、今回が3回目の演奏会となりました。この団体はコロナ禍の下、ベートーヴェンの田園をリモートで演奏したことを契機として発足したもの。だから、「パストラーレ」なんですよね。

木管5重奏プラス弦5部という編成。木管は東フィルの若手首席奏者たちが中心です。第一回にモーツアルトの交響曲第1番とベートーヴェンの第1番を取り上げた後、以降は毎回特定の作曲家を取り上げる方針を宣言し、第二回のシューベルトに続いて、今回はメンデルスゾーン。(いずれは私の熱愛するシベリウスを演ってもらいたいとは思いますが、お客さん、入ってくれるかな…)

今回のプログラムはこんな感じでした。

弦楽四重奏第2番 第3楽章

まずはアペリティフ、木管5重奏で。聴衆が入ってからのホールの響きを確かめるように演奏されました。軽快な演奏で、とてもよかったと思います。

弦楽八重奏曲 op20

木管5重奏プラス弦5部での演奏。私にとっては、この曲がこの演奏会の白眉でした。あまりにも素晴らしくて、大興奮。

言わずと知れた大名曲で、オーケストラ用にも編曲されています。巨匠シャルル・ミュンシュが録音(スケルツォだけですが)を残していますよね。

何が素晴らしかったかというと、森亮平さんの編曲です。非常にクリエイティブ。この団体のために編曲が行われたので、各奏者の芸風に対しての「宛て書き」的に感じられるところもあり、たいへん楽しむことができました。このアンサンブルの醍醐味は、タイトルにも書きましたが、森さんの編曲の素晴らしさと、各奏者(とくに管)の妙技を味わうところにあるんですよね。

演奏も凄い熱量で、細かいキズが無かったとは言いませんが、「この曲って、こんなに盛り上がる曲だっけ?」と戸惑うくらいのエネルギーでフィナーレまで疾走。コロナ禍でなければ、Bravi ! Bravissimo ! が飛び交ったことでしょう。この曲だけで、もう帰ってもよいくらいの出来栄えでした。

弦楽四重奏曲第3番 第3楽章

休憩後は、まずは弦楽四重奏。良い演奏でしたし、楽しむことができましたが、どうせなら全曲聴きたい。ただ、時間的にタイトであると伺っていたので、ここはカットする選択肢もあったのではないかと思いました。

交響曲第4番「イタリア」

この編曲も面白かった。足りない楽器を単純に他の楽器で置き換えるというのではなくて、「おお!」と唸らされるところが散見されました。

第4楽章は快速テンポ。でも、このあいだのカーチュン・ウォンの演奏(べヴェさん、廣幡さんは乗っておられましたが)よりはモデレート。

こういう編成で聴いても、ちゃんと「イタリア」になるのは弦の奮闘あってのこそ。お疲れさまでした。

アンサンブルについて

フルートは、このあいだの新国の「ペレアス」で冴え冴えとした素晴らしいソロを聴かせてくれた下払さんが体調不良で降板されたのは残念でした。そのかわりに急遽登板した神田さんは流石の妙技。

フルート神田さん、オーボエ文吉さん、クラリネット、べヴェさん、ファゴット廣幡さんというのは私が東フィルで一番好きな並びです。確率的には52分の1であるのが残念ですが。ホルンに東響の加藤さんが加わり、木管アンサンブルとしては文句なしの素晴らしさ。

弦はリーダーの山本さんを中心に安定のアンサンブル。今回は、「あの」東条慧さんがヴィオラに加わり、その存在感は印象的でした。Brava !  

このアンサンブルはコントラバスの腕が立たないと成り立たないのですが、今回の谷口さんは実に音楽的で、素晴らしい演奏を聴かせてくれました。いやいや、Bravo 以外にありません。

次回は本来であればブラームスの予定でしたが、文吉さんの予定が合わないということでベートーヴェンの七重奏曲を中心とした室内学リサイタルとのこと。手術から復帰した名フィルの名手、満丸さんの再登場も楽しみです。

プログラムについて

毎回素晴らしいプログラムが用意されていて、これもこのアンサンブルを聴く楽しみの一つ。このセンスは秀逸ですよね。

素晴らしい演奏会でした。 ありがとうございました。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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