まるで弦楽合奏のような、精緻な木管アンサンブル: Pacific Quintet 来日公演

私が以前から注目していた木管五重奏の団体である Pacific Quintet がようやく来日し、初リサイタルを開きました。この団体はベルリンをベースに活動している、若手奏者たちのアンサンブル。なぜ Pacific なのかというと、メンバーたちが初めて会ったのが2017年夏のPMF音楽祭であったら、だそうです。その後、奇しくもメンバーはベルリン・フィルのアカデミー生として2019年に再会し、アンサンブルを組むことに決めたのだとか。

このアンサンブルの特色は、全員が異なる国の出身であること。

フルートのアリーア・ドヴォズォーヴァはウクライナとトルコのハーフ

オーボエのフェルナンド・マルティネスはホンジュラス

クラリネットのリアナ・レスマンはドイツ

ファゴットの古谷拳一は日本

ホルンのヘリ・ユーは韓国

古谷さんは2019年秋のメータ/ベルリン・フィルのブルックナー8番で、師匠であるシュヴァイゲルトの隣で2番を吹いていたのをご記憶の方もおられることでしょう。

ベルリン・フィルのアカデミー生は、いずれは他のオケにポジションを得て巣立っていくので、このアンサンブルも期間限定ということになるのかもしれません。そういう意味で、得難いタイミングでの来日公演であったかと思います。

さて、木管五重奏というと、アンサンブル・ウィーン・ベルリンとかル・ヴァン・フランセが頭に浮かぶ好楽家の方も多いかと思います。そういった団体が各奏者の超絶技巧を披露するという趣きであるのに対して、この団体はとにかく緻密なアンサンブルを志向している点が特色であるのかもしれません。古谷さんが曲の間のトークで、「とにかく繋いで、繋いで」と語っていたのも、そのあたりを反映しているように思いました。とにかく緻密なアンサンブルでした。もちろん、各人が巧いことは言うまでも無いのですが。

曲目はこんな感じ。

意欲的なプログラムと言えるかと思います。少なくとも、ライヒャ、ダンツィ、タファネルといった定番の曲は避けられていました。

モーツアルト:魔笛 序曲

木管八重奏のいわゆるハルモニムジークでも取り上げられる曲。まずは挨拶がわりということで、ホールの響きと聴衆の反応を探るような感じでした。さすがに上手いなあと思わせられます。

ラヴェル:組曲「クープランの墓」

アンサンブルの精度という点では、この日の白眉であったと思います。楽器間でやりとりが本当にシームレス。これは相当な練習量が背景にあるのだと思いました。私が今まで聴いてきた木管アンサンブルの中では、もっとも精緻な演奏でした。

バーンスタイン:組曲「ウェスト・サイド・ストーリー」から

うって変わって、弾けるような楽しい演奏。これは編曲も良いのだと思います。Tonight のしみじみとした風情も良かったのですが、私としては America の底抜けの明るさに感銘を受けました。いかにもニューヨーク、という感じだったのです。メンバーはアメリカとは縁が薄いのにね。

ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」

この日のメインであったわけですが、これは賛否が分かれる演奏であったと思います。技巧的には全く問題なく、みんな素晴らしく上手い。とすれば、編曲に問題があったのかもしれません。というか、私の好みではなかった、ということなのかもしれませんが。この翌日にアンサンブル・パストラーレを聴いたのですけれど、あらためて森亮平さんの編曲の素晴らしさに思い至りました。

メンバーについて

ベルリン・フィルのアカデミー生なので、上手いのはもちろんのこと。その上で個人的な感想を申し上げると、フルートのドヴォズローヴァさん、すごく良かった。とにかく表現意欲旺盛なフルート。オーボエのフェルナンドさんは最初ちょっと乗り切れてませんでしたかね。彼はもしかしてジョナサン・ケリーのお弟子さんかな?ファゴットの古谷さん、彼がこのアンサンブルのリーダーですかね。頭ひとつ抜けている感じでした。すごく上手。ただ、個人的には好みの音色ではありません。東京シティフィルの皆神さんと同じ傾向でしょうか。こういうのが今風のファゴットなんですかね。

素晴らしいコンサートでした。ありがとうございました。第二回来日公演はあるのかな?

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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