不思議と泣けた、広響のマーラー:広島交響楽団2022平和の夕べコンサート

広響はロゴが音符を運ぶ鳩であることが示しているように、音楽を通しての平和への取り組みに力を入れています。そのクライマックスとも言うべきなのが、毎年夏に行われる「平和の夕べコンサート」。今年は原爆の日の前夜に行われました。

曲目はマーラーの交響曲第3番。100分を超える大作なので、遅刻者救済のための序曲等はなく、一本勝負。指揮は首席客演指揮者のクリスティアン・アルミンク、メゾ・ソプラノのソロは、なんと藤村実穂子さん。

マーラー: 交響曲第3番

今季も広響は刺激的なプログラムを組んでいて、先々月にマーラーの6番を演奏したばかりであるにもかかわらず、3番を敢行。それだけであるならば食指は動かなかったのですが、藤村さんが歌われると知り、広島へ赴くことにしました。この日はマツダで試合もあったのですが、音楽優先ということでHBGホールへ。とても道が混んでいたのですが、タクシーの運転手さんが裏道を走りまくってくれて、なんとか15分前に到着。

この曲はホルン8本の斉奏で始まることが象徴しているように、とにかく大編成の大曲。ポストホルンや、トロンボーンの大ソロがあり、正直言って広響にはかなりチャレンジングな選曲であると思います。エキストラを多数必要とする上に、コロナ禍で急遽出演できなくなる団員も少なくなく、果たしてアンサンブルがキチンと成立するのか危惧して臨んだ好楽家は私だけではないと思います。

たしかに、ハラハラする場面はありました。とりわけ、第一楽章でホルン・ソロとコンマスがずれたところとか、指揮者のキューが不明確でホルンと弦がチグハグになったりとか。細かい傷に至っては、随所にあったと言っても過言ではありません。

でも、とても不思議なんですけど、泣ける演奏でした。第四楽章、第六楽章では、聴いていて感極まる瞬間があり、自分でもびっくりしました。もちろん、藤村さんの歌唱が圧倒的であったということもあるのですが、それだけではありません。

アルミンクは新日フィルとこの曲のCDを出していることが示すように、この曲のことを良く知っている点については疑い無いと思います。ただ、聴いていてすごく新鮮な発見があったとか、あるいは構造が浮き彫りになったとか、そういうことは一切ありませんでした。淡々と、普通に振っていたという印象です。以前に新ヤマカズが日フィルとこの曲を演ったときには、非常にわかりやすくメリハリを付け、クライマックスへの導線が目に見えるようでしたけれど、そんな工夫は全く感じられない指揮でした。

語弊があるけど、ブルックナーのように朴訥に演奏されたマーラーで、であるからこそ胸に迫るものがあったのだと私は思います。ある意味、滅多に聴くことのできないマーラーでありました。

ソリストと、オケについて

藤村さんは、もう圧倒的でした。実は第四楽章冒頭部で1階席のアホな客の携帯から着メロが鳴るという許し難いアクシデントがあったのですが、藤村さんは全く動ぜず、” O Mensch “と歌い始め、その瞬間にホールの雰囲気は一変しました。とにかく凄かった。

オケは大健闘。山岸先生率いるホルン隊には、都響の五十畑さんや日フィルの村中さん、伊藤さん、読響の久永さん、九響の木村さんが参加。もう本当に堂々たる演奏。山岸先生はアルミンクと合わないソロがあり、ヒヤヒヤさせてくださいましたが…

この曲といえばトロンボーンとポストホルンであるわけですが、どちらも大変立派なソロでした。トロンボーンの清澄さん、ポストホルンの亀島さん、お見事。ペットのトップは金井さん? 素晴らしかったです。

第六楽章の弦も素晴らしかった。アルミンクはウィーンの指揮者であるだけにヴィオラ、チェロを歌わせる意図があり、それは奏功していたと思います。ヴィオラの安保さん、チェロのマーティンさんの渾身のリードに心打たれました。

指揮者のアルミンクの解釈が云々というよりも、広響の全員野球的な演奏に感動したコンサートでした。素晴らしかった。ありがとうございました。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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