心を揺さぶる日本ワインと、その造り手たちの壮絶なドラマ: 読後感〜「ウスケボーイズ」河合香織

「ウスケボー」とはケルト語で「命の水」、そう、ウィスキーのことを意味します。それなのに「ウスケボーイズ」の表紙カバーにはワイングラスが。シングルモルト飲みである私としては「?」と思ったのが、この本を手に取ったきっかけでした。直感は正解でした。素晴らしい本でしたので、ご紹介しますね。

2年前の春のある日、家内の踊りの発表会が引けた後、わざわざおいでくださった親しい方々をお招きして小さな食事会を催したことがありました。 場所はパークハイアットの「梢」。 ワインリストを拝見したら、なんとドメーヌ・タカヒコ・ソガの「ナナツモリ2015」が。 ワインに詳しくない私でも、ほとんど入手できない銘品であることは知っていましたので、ためらわずに注文。

朝摘みの、花弁にまだ露がキラキラのっている薔薇のようなワインでした。(すみません、私の貧弱な表現力ではとてもこのワインを描写するには足りず…)

「ウスケボーイズ」には、日本ワインの黎明期での「プロジェクトX」のようなドラマが描かれています。

ウスケボーイズとは

なぜ「ウスケボーイズ」かというと、主人公である三人の造り手が師と仰いでいた麻井宇介(あさい うすけ)さんにちなんでいるからです。この麻井さんは、例えていえばワインの世界での「辻静雄」のような方。桔梗ヶ原メルローの生みの親でもあります。麻井宇介はペンネーム。麻井さんはもともとはウィスキーを造りたかったため、「ウスケボー」から「宇介」とされたのだそうです。納得。

登場する三人は、小布施酒造の曽我彰彦さん、ボーペイサージュ(良い景色、という意味のフランス語です)の岡本英史さん、そしてKidoワイナリーの城戸亜紀人さん。 三人とも今となってはワイン好きの間では超有名で、なおかつ彼らのワインを入手するのは至難の技です。(Kidoワイナリーに至っては、抽選に当たらないと買えません…) 私が感動したナナツモリの曽我貴彦さんは、彰彦さんの弟さんで、余市でピノ・ノワールを育てておられます。

心に響いたところ

この三人の、人生を賭けた壮絶なワイン造りの物語については本書をお読みいただくとして、私が心を打たれたのは…

世界的に有名なドメーヌのオーナーが作業衣で畑に立ち、その畑はどこまでも続いている光景を見て、三人は確信を深めて行った。「ワインは紛れもなく農産物なんだ! ワインは畑で出来ている。」

 

風土とは、神から与えられたものではなく、人間が自然に働きかけてつくりあげるものだ。よいワインをつくる仕事は、ポテンシャルの高いブドウを育てるところから始まる。この努力を避けたならば、われわれのつくる日本のワインに、胸を張ることはできない。

 

ワインとは何か。 それはその土地をそのまま表現することである。自然それ自体に、いい悪いはなくて、本来そのままで素晴らしいものであると心の底から信じること。本当にそう思えたなら、後はそのありのままの自然を素直に表現すればいいということだ。そうすれば必ずいいものができる。

 

少しでもいいワインを造りたいという欲求が、他のすべての欲望を超えてしまう。本能の赴くままに没頭してしまうのだ。それでいいと思っている。生きていく喜びも悲しみも、すべて畑の中にあるのだから。

この「ウスケボーイズ」、映画化されたそうです。観に行くのはちょっと怖いような… どうしましょう。

でも映画化されたおかげで、麻井宇介著作集が復刊されました。これです。

これを読んで味わうほうが先ですね、私としては。読み始めたばかりですが、素晴らしいです。辻静雄なくして日本のフランス料理が存在しないように、麻井宇介無くして日本ワインは存在しないのだということがよくわかります。(いずれ読後感を書きますね。)

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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