サプライズの「天国と地獄」のカンカンから溢れるマエストロへの愛情と敬意〜読売日本交響楽団 第215回日曜マチネーシリーズ

ここ数年、「ハズレなし」の名演を聴かせてくれたシルヴァン・カンブルラン の、読響常任指揮者としての最後のコンサート。こればかりは聴き逃すことができません。高所恐怖症の人には辛いと思われる、あの長いエスカレーターを登って芸術劇場ホールまで。

カンブルラン さんが読響の常任になってから、もう9年も経ったのですね。月並みですが、月日が流れるのは早いものです。

彼は南西ドイツ放送交響楽団(SWR)を振って名声を高め、ベートーヴェンやブルックナーの録音もあったので、私たちにもまあまあ名が知れた存在ではありました。ただ、どの録音もどちらかというとスッキリ大吟醸という感じであったため、着任が発表されたときには正直そんなに期待していませんでした。まあ、アルブレヒトよりはいいんじゃないの?と。

今となっては不明を恥じるばかりです。交響楽からオペラ、そして現代音楽まで、何を振っても成果を残す凄い人でした。とくにここ数年は円熟が深まり、去年の「アッシジの聖フランチェスコ」、マーラー9番、そして今年の「グレの歌」は、私にとって一生ものの名演でした。

そして常任指揮者として最後の今日のコンサート。曲目は前半がベルリオーズの歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲、そしてベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。ソリストは売れっ子のピエール=ローラン・エマール。後半はベルリオーズの幻想交響曲。

 

ベルリオーズ: 歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲

私はベルリオーズ愛好家ではないので、この曲、初めて聴きました。ベルリオーズというと、私のなかでは「感情の振幅の大きな音楽を書く人」という印象が強いのですが、この小品は手工芸品のような趣でした。解説によれば喜劇の序曲ということなので、さもありなんという感じですね。手際よく綺麗にまとまった演奏でした。

 

ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第3番

編成を切り詰めて、ピリオドではないけれど古典的な演奏。とても緻密な構成で、こんな曲だったっけ、と思いながら聴きました。エマールもさすがです。前回私がこの曲を聴いたときのソリストはチョ・ソンジンでしたが、これはもう役者が違うとしか言いようがありませんね。エマール、素晴らしい。

アンコールは、聴衆みんなが「へ?」と驚く不思議な曲。クルターグの「遊戯」第6集からの2曲であったそうです。

 

ベルリオーズ: 幻想交響曲

名曲中の名曲。青年音楽家が失恋して薬物中毒になって幻覚を見るという曲ですから、激情を描写するか、荒涼たる心象風景を描くか、あるいはそのミックスかという演奏が多いのですが、今日は違いました。

ものすごく明晰なのです。そして、緻密。私は、こんな「幻想」を聴いたことはありません。とにかく美しい。

オーボエがイマイチであるとか、1番ホルンが遅れるとか、そういった小さな問題はあったものの、圧倒的に素晴らしい演奏でした。この路線で期待できる最高の演奏だったのではないでしょうか。少なくとも私は、こういう演奏が好きですね。

 

アンコール

今日は入り口で配られたチラシに

本日はカンブルラン の常任指揮者としての最終回のため、ベルリオーズ「幻想交響曲」の終了後カーテンコール時は、自由に写真撮影していただけます。

と書いてあったので、何か趣向があるのだろうな、とは思っていたのです。

終演後、ブラヴォーの嵐と大拍手を受ける、マエストロ・カンブルラン 。

と、オケがいきなり「天国と地獄」のカンカンを演奏し始めます。カンブルラン も指揮台に飛び乗って、振り始めると、舞台の袖から降り番の楽員がボンボンを両手に踊りながら登場! カンブルラン に「今日の主役」と書かれたタスキを贈呈。

カンカンが終わる直前のタイミングで、打楽器の後ろに横断幕が!

そして終わっての大歓声。

音楽愛好家としてコンサートに通って40年になりますが、こんな素晴らしい演出は初めてです。オーケストラの敬愛のほどがわかりますよね。

オーケストラが袖に引き上げた後も、マエストロは何度も何度もステージに呼び出されておりました。

ほんとうに素晴らしい演奏会でした。 ありがとう! マエストロ。 また来てくださいね。

 

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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