シェフらしくなってきたインキネン: 日本フィルハーモニー交響楽団第709回東京定期演奏会

われらが日フィルが実に13年ぶりのヨーロッパ楽旅から帰国して、そのお披露目ともいうべき演奏会。曲目はヨーロッパで披露したのと同じプログラムです。ヨーロッパ楽旅の成果はいかに、という期待を抱きつつ、サントリーホールへ。

曲目は前半が武満の「弦楽のためのレクイエム」と、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。独奏はイギリスの大家、ジョン・リル。後半はシベリウスの交響曲第2番。指揮は常任指揮者のピエタリ・インキネン。

武満:弦楽のためのレクイエム

最初の音が出たとき、「おお!」と思いました。日フィルは2年前に山田和樹の棒でこの曲を演奏していますが、そのときに比べて一段レベルが上がった印象でした。「ヨーロッパ楽旅で一皮剥けたか」と思いましたが、よく考えてみればこの曲の本番を何回も重ねてきたわけで、それは上手くなって当然ということなのでしょう。でも、とても精緻な、良い演奏でした。

インキネンの解釈は素直で明快なもの。この曲にはそれが合っているように思われました。

 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番

ついこのあいだカンブルラン/読響/エマールで聴いたばかりですが、それとは異なる方向性の演奏でした。

独奏者のジョン・リルは今年で75歳。テクニックがどうこうという話ではなく、音楽を聴かせる趣き。大柄な人なので音も大きいのですけれど、けっこう繊細な演奏で、オーケストラはよく付けていたと思います。

 

シベリウス:交響曲第2番

今回の楽旅の最初の訪問地はフィンランド。日本とフィンランドの修好100周年記念行事の目玉のひとつという位置付けです。日フィルの創設指揮者の渡邉暁雄先生のお母様はフィンランド人のソプラノ歌手。それだけではなく、日本で最初のフィン語の文法書である「フィンランド語四週間」のはしがきには、お母様であるシーリ・渡邉さんへの謝辞が記されているんです。とにかく日フィルとフィンランドとの縁は深いのですが、意外なことに日フィルにとっては今回が初のフィンランド訪問となりました。

さて、シベリウス。インキネンのやりたいことはまあ理解できましたし、オーケストラの熱演は買いますが、私にとってはあまり好みではない演奏でした。

いわゆる伝統的な解釈とはもちろん異なる演奏。彼が兄事しているエサ=ペッカ・サロネンとも違います。さらには、彼自身の2013年の日フィルとの録音とも様相が異なっているのです。2013年の演奏はどちらかというと静的なものでしたが、今回はもっとダイナミクスを付けたもの。この5年間の日フィルの演奏能力の格段の向上を反映させた解釈変更なのかもしれませんね。今後のインキネンのシベリウスの進化を見届けたい、いや聴き届けたいと思いました。

 

オケについて

弦は二人の首席奏者が総乗り。管はフルートの真鍋さんとオーボエの杉原さんは通して乗っていましたが、クラとファゴットは前半は若い首席、後半はベテランの首席という分担でした。弦で特筆すべきと思われたのはチェロ。菊池さんと辻井さんが二人で弾くと、実に良く鳴りますね。トランペットのクリストフォーリさんは安定の名技。

もうひとつ今回感じたのは、オケのインキネンへの信頼が厚くなったのではないかということ。ついに(ようやく?)シェフ(常任指揮者)らしくなってきたように思われました。これから楽しみですね。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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