巨匠ラザレフのロシアものを聴く喜び:日本フィルハーモニー交響楽団第715回東京定期演奏会

今年74歳ながら元気一杯の巨匠ラザレフ。実は私、それほどロシア音楽が好きなわけではないのですが、彼が指揮するとなれば話は別。今回も予定をやりくりしてサントリー・ホールへ。

曲目は前半がグラズノフの交響曲第6番。後半がストラヴィンスキーの「火の鳥」の全曲版。いやいや、素晴らしかった。

 

グラズノフ:交響曲第6番

私の知り合いの中にはグラズノフ愛好家を自認する方はおられません。多くの好楽家にとっては、音楽史上の作曲家という位置付けなのではないでしょうか。『レニングラード音楽院の院長としてショスタコーヴィッチに作曲を教え、影響を与えた。8つの交響曲と、バレエ音楽「ライモンダ」が遺されている。』といったような。

決して録音に恵まれているとも言い難く、全集はスヴェトラーノフとヤルヴィ(お父さんのほう)、そして意外なことに尾高忠明さんのものだけなのでは?(私はいずれも所有していながら、聴き通してはいないという…)

さて、この6番、どんな曲かというと(私、実演に接するのは初めてでした)、たくさんの具材が入った濃厚なスープのような曲。シェフの腕が良くなければ、どうにもならないでしょうね。おそらく、響きが飽和してしまうかと。

尾高さんのアプローチは、強調する声部の数を絞ることによって、すっきりと、わかりやすくするというもの。それはそれで意義があるのだとは思いますが、濃厚なロシアスープを和風にアレンジし直したような感じになってしまいます。これを「洗練」と呼ぶのであれば、それはそうなのかもしれませんが。(尾高さんの録音は、今から20年前のもの。今だったら、どんな風に調理されるのか、ちょっと興味がありますが。)

さて、巨匠ラザレフ。全部のパートを鳴らします。それでもちゃんと音楽の進行がはっきりしているのは、この曲を隅から隅まで把握し、それをオケを通して表現できているということ。ラザレフ、おそるべしですね。さすが現代ロシアを代表する巨匠だけのことはあります。堪能しました。上の方の席からはブラヴォーの嵐。おられるのですね、グラズノフ愛好家!

 

ストラヴィンスキー:「火の鳥」全曲版

正直言って、全曲盤は退屈だと感じていました。今回のラザレフの演奏を聴くまでは。

周知のとおり、ストラヴィンスキーは全曲をもとにして組曲を3つ作っています。1911年、1919年、1945年版。私は1919年版が好きだったのですが、今回、これらの組曲は所詮ショウピースであったことがわかったように思います。

私見では、問題はテンポにあります。踊ることを想定していない組曲のテンポで全曲版を聴くと、ダレた感じになってしまうのです。今回のラザレフは、冒頭部をそっけないくらいに速いテンポで始めたのですが、よく考えてみれば、これこそが踊れるテンポですよね。

ロミオとジュリエットの時もそうでしたが、ラザレフが振ると情景が見えます。劇場の人ですよね。

 

オケについて

先週に続いて、日フィル、実に素晴らしい。今回は、とりわけ木管群が大健闘。

「王女たちのロンド」の場面、杉原さんのオーボエで始まり、辻本さんのチェロが受け、伊藤さんのクラリネットが引き継いで、鈴木さんのファゴットが上昇していく場面は、もう息を飲む美しさ。もちろんフルート真鍋さん、トランペットのクリストフォーリさんも素晴らしい。ホルンのトップは先週に続いて日橋さん。火の鳥の終曲のソロ、盤石でした。

日フィル、上り調子です。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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