「広響マニアック・クラブへようこそ」:広島交響楽団2022-23年度ディスカバリー・シリーズ第1回

このところ躍進著しい広響。プロ化50周年となる今季はかなり「攻めている」プログラムが話題です。なにしろ今季のスローガンが「挑」ですからね。その中でもすごいのがディスカバリー・シリーズ。音楽総監督である下野さんが4回にわたってマルチヌーの交響曲1〜4番を取り上げ、これにジョン・ウィリアムスによる管楽器の協奏曲と、ドヴォルジャークの序曲等を添えるというプログラミング。これはすごい。解説で下野さんが「広響マニアック・クラブへようこそ」と挨拶されましたけど、まさにそうですよね。

さて、その第一回。プログラムは前半にドヴォルジャークの序曲「自然の中で」、そしてジョン・ウィリアムスのフルート協奏曲。後半にマルチヌーの交響曲第1番。

演奏会の冒頭にドヴォルジャークの弦楽セレナーデから第一楽章が演奏されました。これは6月4日に30歳の若さで逝去されたコントラバスの井上大貴さんへの献奏。下野さんがマイクを取り、井上さんとの思い出を涙ながらに語った後、献奏の伝統からは外れるけれど、盛大に拍手してほしいとのお願いがありました。

沁み入るような演奏でした。前日に芸大フィルハーモニアの首席ファゴット奏者である依田さんの急逝の報に接したばかり。なんとも言えない気持ちで依田さんへの追悼の気持ちも込めて拍手しました。

ドヴォルジャーク:序曲「自然の中で」

ドヴォルジャークはかなりたくさんの序曲や交響詩を書いているのですが、演奏に接する機会は少ないのが実情です。この曲も、たしかヤクブ・フルシャの来日が実現していたら、聴かせてもらっていたはずなのですが、コロナ禍で流れてしまい…

綺麗な曲でした。ただ、強い印象を残すという曲ではそもそもないので、なかなか演奏されないことにも納得。

ジョン・ウィリアムス:フルート協奏曲

フルートは広響首席奏者の森川公美さん。下野さんは解説の中で「スターウォーズを期待しないでください。180度反対です。」とおっしゃっていましたが、まさにそのとおり。「ジョン・ウィリアムスは黒澤明の映画辺りからインスピレーションを得たのでは」とも語っておられましたが、この曲はまさに「和」のテイスト。それも、雅楽。 弦がつくる透明なハーモニーは笙のようでしたし、ハープの奏で方は琵琶を思わせます。フルートは竜笛。

良い意味で期待を裏切られ、雅楽愛好家でもある私としては、たいへん面白く聴くことができました。 森川さん、お見事でした。

マルチヌー:交響曲第1番

マルティヌーよりもマルチヌーの方が原語の響きに近いのだそうです。プログラムの解説も、マルチヌーに統一されていました。

私はマルチヌーが好きで、既存の交響曲全集の音源は、(知る限り)すべて持っています。先年亡くなったイェジー・ビエロフラーベックは国際マルチヌー協会の会長で、全集も2つ(BBC響とチェコフィル)を出しているのですけれど、ちょっとアンサンブルの精度に欠けるところがあるように思います。私の意見では、ヴァーツラフ・ノイマン/チェコフィル盤がベスト。

実演で素晴らしかったのはヤクブ・フルシャが都響と取り組んだツィクルスで、これはもう世界水準の演奏。当時、都響の事務局の方に「CD化したら天下取れますよ!」と力説したのですが実現せず、残念です。

さて、下野さん/広響の演奏はというと、とても良かったです。マルチヌーの決め手は、私見では弦楽器の細かい刻みをどれだけ正確にきっちり弾くかと、そこでの木管とのバランスにかかっているかと。今回、重要な役割を担うヴィオラセクションが奮闘していて、とてもとても良かった。

ただ、私の好みとしては、マルチヌーでは強いオーボエが欲しい。都響では広田さんが吹かれたので、まさにイメージ通り。ちなみにノイマン/チェコフィルでもオーボエは強いです。広響の庭瀬さん(?)は繊細な、どちらかというと細めな音色なので、個人的にはもうちょっと自己主張して吹かれた方がよいのではと思いました。

下野さんの解釈は、解説でお話しになっていましたが、同時期に作曲された「リディツェへの追悼」との関係から第三楽章に重きを置くものであったように思います。結果として、ウクライナとの同時代性が濃密に感じられるようになり、広島のオーケストラのアイデンティティにつながるものがあったように私には感じられました。

アンコールはドヴォルジャークの「チェコ組曲」から、第二曲「ポルカ」。 ちょっと土の匂いがするような曲でした。

素晴らしい演奏会でした。第二回が楽しみです。ありがとうございました。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して15周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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