「のぞみ」にもあらわれはじめている、人手不足の兆し

昨年の秋から東海道新幹線、とくに「のぞみ」で小さな変化が起きていることにお気づきでしょうか? いま大きな問題になりつつある人手不足の兆しを感じさせるものがあるのです。

「小さな変化」はふたつ。

1)車内販売のカートが減った
2)パーサーではなく、車掌さんがおしぼりを配る(こともある)

人手不足を背景とする生産性向上の試みが、新幹線にも及んでいるようです。

車内販売のカートが2台から1台に

すべての「のぞみ」というわけではないのですが、早朝、昼食時、夕食時以外の時間帯ではワゴンを1台だけにしているようです。この場合、こんなアナウンスが流れます。

この列車では車内販売のワゴンは1台だけで営業しておりますので、7号車から11号車までのお伺いとなりますことをご了承ください。

「こだま」ではすでに車内販売はなくなっていますから、お弁当やサンドイッチが売れない時間帯にはカートの台数を減らすというのはうなづけるところです。グリーン車(8〜10号車)中心に回ることにしているのは、おそらく各号車ごとに売上高を分析した結果なのでしょう。

車掌さんがおしぼりを配る

ご存知のとおり、グリーン車に乗ると女性のパーサーがおしぼりを配ってくれます。ところが最近は男性の車掌さんが配ってくれることが増えてきました。おそらく、パーサーの数を今までの3人から2人に減らしているからでしょうね。

JR東海のとても偉い人から以前聞いた話です。なぜパーサーが導入されたのか。それは、以前に新幹線で行われていた「検札」が背景にあります。

いまは指定席券を買って、自分の席に座っているかぎり、「乗車券を見せてください」と言われることはありません。でも、ちょっと前までは、気持ちよく寝ていても車掌さんに起こされて、乗車券に検印を押してもらわないといけませんでした。

東海道新幹線のグリーン車も例外ではありませんでした。日本の産業の大動脈と言われる東海道新幹線のグリーン車となれば、財界の偉い人もたくさん乗っておられます。気持ちよく寝ているのに無粋に起こされた恨みは思いの他大きくて、経団連や経済同友会で「JR東海のとても偉い人」はめちゃくちゃに文句を言われたのだそうです。

そこで、「のぞみ」の就航に際して、無愛想な車掌だとダメだけど、若い女性に揺り起こされるのであればOKかもしれないということで、パーサーの導入を決めたのだとか。

組合との関係で車掌さんの職域侵害にならないようにという配慮があったのか、運賃がらみの話は車掌の仕事。パーサーに申し出ても、車掌さんが引き取って処理していたことをご記憶の方も多いかと思います。

いまはそもそも指定席での検札をしなくなったので、パーサーの存在意義が低下したとも言えるわけで、それが減員の背景にあるのでしょう。その一方で、かつては戦闘的であった組合も弱くなったので、車掌さんにおしぼりを配らせても文句が出ないのかもしれません。

どの業界でも「多能工化」による生産性向上がトレンドである昨今、「のぞみ」も例外ではないというお話でした。この勢いだと、「のぞみ」の車掌さんを女性にしようという流れになるのかもしれませんね。(実際、女性の車掌さんは増えているのですよ。)

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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