バグパイプ、吹いたことありますか?

アメイジング・グレイス、ご存知でしょうか?

奴隷船の船長であったジョン・ニュートンが悔い改めて牧師となり、神の恵みを賛美するために作った曲です。スコットランド民謡風のスローテンポな曲。

教会で賛美するときには、ファゴットでも吹けなくはないのですが、オーボエで吹いてもらうととても感動的です。 でも、この曲の曲想にいちばん合う楽器は、文句無しでバグパイプです。

バグパイプ、吹かれたことはありますか? 私は吹いてみるどころか、無謀にも購入してしまったという、今でいう黒歴史があるのです。

バグパイプでアメイジング・グレイスを吹くと、こんな感じです。 この動画はちょっと色モノ系なのですけど。

出会いは小学生のころ

さて、なぜバグパイプを購入することになったのかという件ですが、話は小学生のころに遡ります。

おそらく日英友好の行事のひとつだったのだと思いますが、スコットランドからスコットランド歩兵第42連隊の軍楽隊が来日。たしか三越の屋上でミニコンサートをやってくれたのですが、それを私は一人で電車を乗り継いで聴きに行きました。

そこで演奏されたのが Scotland the Brave という、スコットランドの第二の国歌と言われる曲でした。バグパイプの調べは圧倒的で、すっかり魅了されたことをはっきり覚えています。(この曲については、こちらをご参照ください。)

この楽器を吹いてみたいと思った私ですが、どうしたらよいのか途方に暮れたまま、いつしか忘れてしまいました。大学に入ってファゴットを吹き始めたこともあり、バグパイプは遠い存在となりました。

ちなみにスコットランド歩兵第42連隊は Black Watch と呼ばれ、ワーテルローの戦いで勇名を馳せた精鋭部隊です。彼らが演奏する Scotland the Brave は、この動画で鑑賞することができます。

シアトルでの出会い

大学を出て日本郵船に就職した私は、入社3年目の異動でアメリカへの研修生を命じられ、1987年に渡米しました。

この研修制度は私が20代目くらいの歴史のある制度で、毎年ひとりの若手をアメリカに送り、アメリカの物流会社や港湾局に里子として放り込んで鍛えるというもの。1年間に私はアメリカで38州、カナダで6州を訪問。平均すると4日に一度はフライトで移動するという生活でした。

そのなかで、シアトル港湾局での生活は珍しく4週間にも及ぶ滞在となりました。このとき私の面倒をみてくれたのがスコットランド系の人で、彼が趣味でバグパイプを吹いていたのです。

私が Black Watches の演奏を聴いたことがあると話すと、彼はとても喜んで、お宅に招いてくださいました。そこの地下室で、バグパイプを聴かせてくれたのです。

スコットランドのバグパイプは私の体格だとギリギリの大きさでした。 アイルランドのパイプはもう少し小さいということなので、彼がバグパイプを買ったお店に連れて行ってくれることになりました。

スコッティッシュ・パイプでないとね

そのお店の名前は、スバリ、The Scottish Pipe Supply 。シアトル郊外の静かな湖のほとりにありました。

お店に入ると、スコットランド近衛歩兵連隊の緋色の軍服を着た白髪の大柄な老人が出迎えてくれました。聞けば、軍曹まで務めての退役後にアメリカに渡ってきて、このお店を開いたとのことでした。

彼にアイリッシュ・パイプを見せてくれと頼んだら、穏やかに、しかし決然とした表情で拒否されました。

「スコッティッシュ・パイプでないとあなたの求める音は出ないよ。 それに、コツを覚えればスコッティッシュ・パイプでもホールドできると思う。 私は、本物を売りたいんだ。」

さすが軍曹。結局私は当時のボーナスに相当する金額を払い、スコッティッシュ・パイプを購入したのです。

音が大きい。信じられないほどに

バグパイプは言ってみれば小型のパイプオルガンのようなものです。口から息を吹き込んで皮の袋に溜め込み、それを脇の下の挟み込んで圧を加え、袋から出る空気が3本のパイプを通って音が出る仕組みです。

問題は、とても音が大きいということでした。そもそも軍が採用したのは、3キロ先でも音が聞こえるため、通信手段として使えるから。 これを日本の住環境で吹くのにはかなりな問題がありました。シアトル港湾局の彼でさえ、地下室で吹いていましたっけ。

結局、皮の袋が痛んだこともあり、泣く泣く2015年に廃棄しました。タイトルの下にある写真が、私のバグパイプです。

もう3年前になりますが、年末の数寄屋橋交差点近くを夜11時ごろに通りかかたら、「蛍の光」をバグパイプで吹いている外人さんがおりました。 話しかけようかと思いましたが、やめました。

バグパイプ、よい音がするんですよ。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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